コミュニケーションが不足し勝ち

新型コロナウイルスの感染が拡大し続けている中で、「月光仮面」が企業の内外で出没しているらしい。何のことかお分かりだろうか。「疾風(はやて)のように現れて、疾風のように去っていく」という「月光仮面」のテーマ音楽を記憶されておられる方にはもうお分かりだろう。「3密」を回避するためだか何だか、用件もそこそこに顧客先から立ち去っていくのだそうだ。それでなくても普段からコミュニケーションが十分にとれているのか怪しいのに、肝心のお互いの関係構築がこれで十分になされるとはどうしても思えない。やはり「3密」とは別の次元でコミュニケーションの確立には改めて力を注がなければならないと思う。

それはCRM(顧客との関係のマネジメント)を重視しなければならないと言われる営業だけの問題ではない。第一に経営者と現場が新型コロナを契機に、疎遠さを増していないか気にかかる。電車に乗っていても隣の人が何を考えているのか分からないのと同じで、新年早々、「今年は○○に力を入れていこう!」「オウ!」と互いに気合いを入れても、一体何に力を入れるのか、力を入れるとはどういうことなのか、その他のことはどうするのか、これまでと働き方は何か変わるのか、とあまりに多くのことが現場任せになっていたり、個人の裁量、判断に任されたりしていることが多いものだ。

ギャップが解消されない

そもそも経営者として世の中の動きや競合のことを考えているはずの者が、現場で日々顧客に頭を下げ、競合と白兵戦を繰り広げている社員と、普段から見えているものも、感じているものも、そして感じる度合いなども同じであるはずがない。よく「決めたはず」の戦略や重要な案件が実行されない大きな理由の一つがこの経営者と現場とのギャップにある。本来はそれを埋めるためにコミュニケーションが存在しなければならないのに、それが十分にできていないがために、同じような言葉を使っていても経営者と現場で考えていることが全く違っていることが起きる。

「決めたはずの事項が実行されない」というのは、私もよく聞く経営者の悩みの一つだ。実際にはこうした決め事がなかなか実行されないことの理由としては、計画などを策定した段階でどこかでホッと一息ついている、そんな状況があったりもする。そこが「出発点」であることを忘れ、「やる」と決めた計画、プロジェクトなどが何か月も棚ざらしになっていたりするのも珍しい話ではない。

まあ、この際それは置いておくとして、今はコミュニケーションの問題だ。決めたことを社員が知らないといったことさえ珍しいことではない。私の経験としても、もう10年以上も前の話になって恐縮だが、ある大手企業で作られた長期計画が、その後誰も知らない間に社内の誰もがそれに触れることなく自然に消滅していたということがあったという、ウソのような本当の話があった。

都合の悪い情報が入りにくい経営者

計画にしろ何にしろ、決定案件が重要であるほど実行されて当たり前だと思うだろうが、スタッフも資源もある大企業であってさえもなかなか思うようには行っていないという現実が確かにある。実は米国での調査になるが、実際の業績と中期経営計画の計画を比べて、何ができたか、できなかったか、それは何故だったのかのレビューをきっちり行っているのは全体の15%に過ぎなかったという報告もある。投資の世界では、企業の計画を見て投資を行うのでなく、最初は少しだけ投資して、その結果を見て次の投資を決めることで、そもそも全く投資をしないでチャンスを逃すことなく、また大きく投資をして失敗するリスクを避ける方法さえあるのだという。

もし「コミュニケーションしているはずなのに、それでも全然分かってくれない」と経営者と現場がお互いに思っているとすれば、コミュニケーションの在り方を真剣に再検討しなければならない。中には現場の声を聞くことが大切とばかり、現場を回ることを日課にしていた経営者もかつて私の知っている方でおられたが、それで本当の情報のやり取りができているのかどうか怪しいものだった。というのも、現実には経営者にはただ現場を回ったくらいでは都合の悪い情報など入りにくいものだからだ。

ちょっとした差が大きなリスクに

特に経営者のコミュニケーションでは、社内での判断のベースを共有できるようにしておくことが求められる。環境も、競争相手も、社員一人一人の仕事内容も変わろうとしている時に、さらにそれぞれに創意工夫を求めようとして細かなルールやマニュアルで意思決定のレベルを上げようとしても、十分に対応できるものではない。その代わりに、企業が求める決して譲れないものは何かという価値観を共有しておくことがこれからは一層大切になってくるはずだ。

新型コロナの感染拡大を契機に一気に広がったリモートワークで、「ちょっとした」コミュニケーションからとりづらくなっている今日、この「ちょっとした」ことの違いをそのままにしていては、重要なことの伝達もさることながら、仕事の質が落ちたり、社内の雰囲気なども悪くなりがちだ。「リモートワークだから社内の雰囲気など関係ない」というのはあまりに短絡的だ。「危機的」と言われる状況にある今だからこそ、コミュニケーションで培った底力が試される。積極的に社内での交流の機会をつくって、意識的にコミュニケーションを盛り上げる努力、工夫が欠かせない。

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