日本弁護士連合会が「弁護士白書」または「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書」から抜粋して公表している資料(基礎的な統計情報)によれば、2024年3月31日の時点で国内の法律事務数は18,470事務所あるということです。
その中の11,436事務所が、1人で独立して働いている個人事務所です。パーセンテージに表すと、全体の61.92%が1人の法律事務であり、多くの弁護士が独立して働いていることがうかがえます。
本記事では、独立を考えている弁護士の方向けに、独立する際に必要な準備やタイミング、資金計画などの開業のコツをご紹介していきます。
参考:基礎的な統計情報(2024年)法律事務所の共同化及び弁護士法人の現状
【目次】
弁護士が独立するメリット
弁護士が独立するメリットは、なんと言っても「自分自身で決めた働き方ができる」という点ではないでしょうか。
例えば、
・どのような案件を受けるか
・事務所を構える場所や住所
・事務所の内装
・営業曜日や営業時間
など全て自分で決めることができます。
どのような案件を受けるか
どこかの法律事務所に所属する場合は、所属先の法律事務所の方針があり、やってみたい案件があっても断らなければならないということもあります。
しかし、独立した場合は、どのような案件でも自分自身で受けるか受けないかを決めることができます。今までチャレンジできなかった案件にチャレンジする、得意分野の案件に特化するなど自由に選択できます。
事務所を構える場所や住所
自宅から近い場所、もしくは人通りが多い場所やオフィス街、住宅街、駅近など、様々な立地条件がありますが、自分自身の考えや優先順位で決定することができます。
事務所の内装
「落ち着いた雰囲気にしたい」、「アットホームさを重んじたい」、「高級感ある内装がいい」、「シンプルにする」、「自分の好みのインテリアを置く」等、一から作り上げる楽しみがあります。
営業曜日や営業時間
ライフワークバランスを自分自身で決めることができます。もし通院や介護、その他の家庭の事情などがあっても、営業曜日や時間をうまく設定することで働き続けられる可能性が高まります。
弁護士が独立するデメリット
では逆に、弁護士が独立するデメリットとはどのようなものがあるでしょうか。
独立して1人事務所としてやっていくデメリットとしては、例えば下記のようなものがあります。
・初期費用がかかる
・継続的に経費が発生する
・相談できる相手がいない
・事務処理や営業活動など経営全般の業務が発生する
・安定的な月々の収入が確約されていない
初期費用がかかる
法律事務所に限らず、独立時には多くの初期費用が発生します。
たとえば、事務所の賃料や内装リフォーム費、インターネット回線や電話回線の工事費、家具やデスクの購入費などが挙げられます。レンタルオフィスやシェアオフィスで事務所開設費用を抑えたとしても数ヵ月の運営資金は用意しておく必要があります。
最初はまとまった大きな額が必要となる場合が多いため、しっかりと予算計画を行う必要があります。
継続的に経費が発生する
オフィスの賃料をはじめ、インターネットや電話の基本料金や使用料金、印刷代や文房具などの消耗品の諸々は、初期費用のみではなく継続的な経費として発生します。
初期費用同様、どこかに所属している弁護士の場合は考える必要の無い出費について、事前に把握しておく必要があります。
相談できる相手がいない
独立すると、身近にいた先輩弁護士やパートナー弁護士、所長弁護士の存在がなくなるため、いざというときや、ちょっとした細かい事柄を相談できる相手がいません。独立前に、先輩弁護士や同期弁護士と深い人間関係を構築しておくことも大切といえます。
事務処理や営業活動の負担が大きい
今までは法律事務員が行っていた事務処理や、HPの管理運営、法律事務所サイトへの登録作業なども全て1人で行わなければなりません。
慣れないうちは、事務処理や営業活動に時間がかかりすぎてしまい、クライアント対応を行う時間が減ってしまう可能性があります。
安定的な月々の収入が確約されていない
雇われている立場とは異なり、独立後は毎月決まった収入が得られるわけではありません。
独立してから営業活動やマーケティングをはじめるとなると、安定的な収入を得るのは難しいと言えるでしょう。
弁護士が独立する際のベストなタイミングは?
日本弁護士連合会の「近年の弁護士の実勢について(2018年)」の中の「弁護士の就業形態(経験年数別)」のデータを基に、弁護士が独立する際のベストなタイミングは、5年~15年と言われています。
弁護士歴が5年未満の場合、経営弁護士として働いている割合は13.9%です。
しかし、5年以上10年未満になると経営弁護士の割合は51.3%となり、半数以上が経営弁護士として働いているということになります。
10年以上15年未満では75.9%、15年以上になると8割から9割が経営弁護士とわかります。
同じく、「弁護士実勢調査に基づく近年の弁護士の実情(2023年)」では、経験年数別のアンケートは取られていませんでしたが、司法修習期別でのアンケートが取られています。
ここでも、弁護士資格を得て5年未満の経営弁護士は14.1%、5年以上10年未満では44.4%、10年以上15年未満では73.8%という結果が出ています。
2018年のデータとおおよそ同じように、5年~15年の間に独立している弁護がほとんどだということがわかります。
このデータを基に、実務経験や多様な案件処理を経験した5年目以降、そして独立を目指す体力や胆力がある15年目まであたりが独立するベストタイミングだと言えるでしょう。
弁護士の独立で必要な準備
弁護士の独立開業には事前準備が大切です。
独立で必要な準備について、本記事では5つの項目に分けてご紹介します。
・経営や収支について計画を立てる
・独立にかかる費用を把握する
・資金繰りを検討する
・開業資金を調達する
・退所手続きを行う
経営について計画を立てる
弁護士としての仕事経験はあっても、独立することで経営を初めて行うことになります。
優秀な弁護士でも、経営に関しては苦手で苦労しているという事例もあります。独立は勢いも大切ですが、しっかり経営計画を立てておく必要があるでしょう。
また、独立している先輩弁護士や同期弁護士がいればアドバイスをもらったり、税理士に収支について相談したり、誰かに頼ることで見えてくる課題もありますので、情報収集も大切です。
なお、日本弁護士連合会では、弁護士の独立開業を支援するための「各弁護士会における即時・早期独立開業支援を中心とした新規登録弁護士の支援態勢等」や、「即時・早期独立開業マニュアル」などをHPに掲載しています。
即時・早期独立開業マニュアルの中には、「自宅開業なら50万円、執務場所を自宅以外に求めるのであれば100万円~300万円あれば開業は十分可能である」との記載もありますが、具体的には開業場所が地方なのか都市部なのかによっても異なると言えるでしょう。即時・早期独立開業マニュアルの発行自体が2012年のため、現代の物価価格を加味して経営計画を立てる必要はありそうです。
また、独立前に一定のクライアントを抱えて独立するのか、マーケティングや営業活動の経験を積んでいるのかどうかで、事前に用意する運転資金も変わるでしょう。約6ヵ月の運転資金は確保しておきましょう。
各弁護士会における即時・早期独立開業支援を中心とした新規登録弁護士の支援態勢等
独立にかかる費用を把握する
独立にかかる費用について、日本弁護士連合会の即時・早期独立開業マニュアルの中には、「自宅開業なら50万円、執務場所を自宅以外に求めるのであれば100万円~300万円あれば開業は十分可能である」と記載があるとご紹介しましたが、内訳はどのようなものなのかを知っておく必要があります。
まず、高額な費用がかかると言われているものは「賃料」です。
もし事務員を雇う場合は、「人件費」も同様に高額な費用と言えます。
もちろん、それ以外にも諸経費が毎月かかってきます。
以下項目では、
・賃料
・人件費
・その他経営にかかる費用
に分けてご紹介します。
なお、独立開業してすぐに安定的な収入につながるとは限りません。
6カ月~1年程度は収入がなくても、基本的なランニングコストを支払える程度の金額を用意しておくと安心です。
賃料
他の経費と比較して、一番高額な費用は事務所の賃料でしょう。
月々の賃料は立地条件や広さ、築年数によって異なります。
予算と照らし合わせながら、なるべく条件にあった物件を探すことになります。
貸しオフィスの場合は、初期費用として「敷金」「礼金」「前家賃」「仲介手数料」「火災保険料」が発生することがほとんどであるため、1か月分の賃料の10倍程度を用意しておく必要があります。
例えば賃料が10万円のであれば、100万円程度は準備しておくということです。
また、賃貸オフィスほどの料金がかからないレンタルオフィスを利用する弁護士も多くなっています。レンタルオフィスでは、礼金や仲介手数料が無料のところが多いところがメリットです。さらに、応接セットやコピー機、デスク、ネット環境なども備え付けられていることも多いため、賃貸オフィスよりも経費を抑えることができます。
ただし、法律事務所は「執務実態を確認できる事務所」であることが義務付けられているため、バーチャルオフィスのような住所と電話番号のみをレンタルして独立開業をすることはできません。
自宅で開業する場合は別途の賃料は不要なため、応接セットやコピー機、パソコンなどの経費だけで済みます。しかし、自宅住所を日本弁護士連合会のHPなどに掲載する必要があります。
人件費
事務処理や電話対応の煩雑さから、法律事務員を雇いたいと考える弁護士は多くいます。
しかし、人件費は賃料同様に、決して安くはないランニングコストが発生します。
毎月の給与に加えて、雇用保険や労災保険もかかります。場合によっては、健康保険・厚生年金、退職金や賞与も考えなければなりません。
給与の目安でいえば、一般事務の給与平均はアルバイトやパートで時給1,155円程度、派遣社員で時給2,000円程度です。(派遣会社への支払いを含む)
正 社員の場合は、初任給で平均月給20万円以上かかります。
その他、もし求人サイトや広告を使って求人募集をする場合には、掲載費として月に2万~40万円程度はかかると考えていいでしょう。
掲載費のかからないハローワークや、弁護士会の一部無料掲載を利用して求人募集を行う方法や、知り合いの弁護士の方などから法律事務員を紹介してもらう方法もあります。
なお、求人募集をかけても求める人材が来ない場合もあれば、雇用してもすぐに退職されてしまうリスクもあります。また、万が一雇用した法律事務員と相性が悪いと感じても、すぐには解雇できません。
法律事務員の雇用については、独立して仕事が軌道にのってから検討しても良いかもしれません。
参考:求人ボックス 給料ナビ
その他経営にかかる費用
事務所の賃料と人件費以外でかかる経費も多くあります。
初期費用では、冷蔵庫などの電化製品、応接ソファなどの家具、デスクや椅子などのオフィス用品、コピー機などの事務機器、ノートパソコンなどの電子機器、ネットや電話線の工事費などが挙げられます。
以上は、オフィスを借りて開業する弁護士の多くが共通して必要になる経費と言えます。
自宅で開業する場合は家電製品やネット環境などは既に揃っているため、初期費用を抑えることができます。
その他、事務所のHPを作成する場合は、HP作成費も必要です。
WEB幹事というサイト経由で発注がかかった法律事務所のHP作成費のデータをとったところ、専門業者に依頼すると平均58.6万程度、中央値で35万円程度かかるようです。
月々のランニングコストとしては、光熱費や水道代、電話代などがあります。
ほかにもコピー用紙や文房具などの消耗品、交通費、クライアントに出すお茶代なども考えられます。
細々した費用は思いつかないことも多いため、既に独立開業をしている先輩弁護士や同僚に聞いておくと良いでしょう。思い当たる知り合いがいない場合は、独立時にかかった経費の詳細をブログで公開してくれている弁護士もいるため、参考になるかもしれません。
参考:WEB幹事
資金繰りを検討する
様々な必要経費の概算を把握した後は、資金繰りを検討することになります。
1人では資金繰りのシミュレーションができないという場合は、税理士に相談する方法もあります。
自己資金のみでの独立開業ではなく、日本政策金融公庫もしくは民間の金融機関から融資を受ける場合は、開業後3カ年の資金繰りの表があると良いでしょう。
まずは、「月々の必要経費を支払う」、そして「日々の生活に困らない」ためには、毎月どの程度の収入が必要なのかを知る必要があります。
そして、その収入を得るためには月にいくつの案件を受ければいいのかを導き出します。その際に、着手金や報酬額の設定金額についても検討しましょう。
なお、独立してすぐにコンスタントに依頼が入ってくることは考えにくいため、開業時の投資のし過ぎには注意が必要です。
開業時から一等地に事務所を借りたり、内装やオフィス用品に高級感をもたせるために高額ローンを組んだりしてしまい、すぐに資金繰りの目途が立たなくなってしまった事例もあります。
集客方法
独立後は集客力が必要とされます。依頼が無ければ、資金繰り計画はすぐに立ち行かなくなってしまいます。
集客方法としては、「事務所HPを作成する」「SNSを活用する」「弁護士ポータルサイトに登録する」「広告を出す」「民事法律相談会に出る」「異業種交流会に出る」「知り合いに紹介してもらう」などが考えられます。
しかし、どの方法もまずは法律事務所を知ってもらうことから始まります。
独立してすぐは実績がアピールできないため、根気よく人脈づくりや、宣伝を続ける必要があります。
すぐに依頼が入らないことも想定して、ある程度まとまった金額を貯めておく必要があります。
少し異なりますが、法テラスの国選弁護事件を積極的に受けることで受任を増やす方法もあります。
報酬基準の決定
独立すると報酬基準を自由に決めることができます。
報酬基準は明確にしておき、相談者やクライアントにスムーズにわかりやすく説明ができるようにしておかなくてはなりません。
着手金無料の完全成功報酬型にするのか、それとも着手金は必要だけれども報酬額を低めに設定するのか決定する必要があります。その時に、事案の難易度や、かかる時間と労力なども考慮しなければなりません。
また、相談料は初回無料にするのか、時間単位で料金が発生するのかなども検討が必要です。
まずは他の競合法律事務所や周辺の法律事務所の報酬基準をチェックしてみたり、旧弁護士会報酬規程などを参考にしたりすると良いでしょう。
既に独立している知り合いの先輩弁護士がいれば、相談してみることもおすすめです。
開業資金を調達する
資金繰りの計画を立てた後は、実際に資金を調達する必要があります。
開業後すぐは、赤字もしくは無収入を覚悟して開業資金を用意したほうがいいでしょう。独立開業にかかる費用が自己資金では難しい場合は、日本政策金融公庫もしくは民間の金融機関から融資を受ける必要があります。
日本政策金融公庫と民間金融機関との一番大きな違いは、金利と言えます。
日本政策金融公庫は金利が安いだけではなく、独立開業に協力的なため、独立時の融資を受けやすいというメリットもあります。
しかし、民間の金融機関で融資を受けるメリットも存在します。例えば、民間金融機関との関係構築ができるため、金融機関から案件の紹介を受ける場合があります。
ただし、いずれかの金融機関から融資を受ける場合であっても、自己資金はなるべく多いほうが安心です。
独立開業では資金繰りが計画通りにうまくいかず、立ち行かなくなってしまうという費用面の失敗が一番多いためです。
退所手続きを行う
独立への準備が整ったら、現在勤めている事務所の退所手続きを行います。
円満退所が叶えば、独立後にお祝いとして案件を紹介してくれる場合も多いようです。
もしお祝いの案件紹介がなかったとしても、円満に退所することで独立後も気にかけてもらえる可能性が高くなります。
例えば、どうしても多忙で案件を受けきれない場合などがあれば、紹介先の候補にしてくれるかもしれません。また、周辺で良い口コミをしてくれる可能性もあるでしょう。
ただし、法律事務所によっては独立自体を歓迎していないところもありますので、注意が必要です。
退所手続きは下記のような流れになります。
1. 退所したい旨を口頭で伝える
2. 同時に退所希望時期を口頭で伝える
3. 退所日が決定したら退職届を書いて提出する
4. 業務を引き継ぐ
5. 残務処理と未受領の報酬等について確認する
将来独立したいという方は、入所時の面接などでも話してみるのも良いかもしれません。その時に応援してくれそうなのか、そうでないのかで経験出来ることも変わるでしょう。
円満に退所できない原因と対策
円満退所ができない原因の1つとして、退所希望日が近すぎるということがあげられます。
例えば自身の退所希望日が1か月後であったとしても、1カ月では受任中の業務を引き継ぎきれない可能性があります。また、新たな弁護士を雇うにしても、1カ月という短い期間では難しいでしょう。
勤務先の法律事務所の都合を全く考えていない!と思われないためにも、退所希望日は余裕をもって半年程度前には伝えるようにしましょう。
また、余裕をもって伝えたとしても、勤務先の事務所が希望する退所希望時期があるかもしれません。
例えば、他の弁護士と退所時期がかぶっているのでずらしてほしいという場合や、次の弁護士を雇用するまで待ってほしいという場合もあり得ます。
その際に勤務先の希望を聞き入れず、自身の退所希望日で押し切ってしまうと話がこじれてしまいます。勤務先の都合も考えながら、お互い合意できる日程を相談する必要があります。
独立準備が滞ってしまうことが心配であれば、「退所日を後ろにずらす代わりに、独立準備として休む日を増やしたい」など、交渉を行うと良いでしょう。
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まとめ
弁護士が独立する際に必要な準備には様々なものがあります。
資金計画を具体的に進めてみて、予想よりも多くの経費がかかると知る方も多いのではないでしょうか。
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