計画よりもまず第一歩

何か新しいことに取り組もうとする時、計画がどの程度詰められているのかをよく質問される。
そのやろうとしていることの目的、内容と問題点(リスク)の把握、資金・収支計画などである。
場合によっては、失敗した時の言い訳まで考えている例もあるようだが、それは論外としても、もちろん事前にこれらの計画が無いよりある方が良いに決まっている。

しかし、どれだけ事前に考えても、それはその時の状況を反映したものでしかなく、状況は時々刻々と変わっている。計画通りにはいかないのが常だ。

だから、ある程度の計画があるなら、それを精緻に練り上げるよりも、むしろまず第一歩を踏み出すことをお勧めする。踏み出してみて、現実に触れてみるのである。

できることから始める

マラソンにたとえると、42.195㎞を走り切ろうとするなら、それなりの練習を積んでから本番を迎えるはずだ。そして、本番前には、おそらくストレッチなどの準備運動をするだろう。

本番までに積み上げた練習と本番前のストレッチは、どちらも完走するための準備と言えるが、どれだけ本番前にストレッチをしたところで、レース当日までに練習を積んでおかなければ、期待するようなタイムが出せないばかりか、完走さえも難しいかもしれない。

このレース当日までの練習に相当するのが、まず第一歩を踏み出して現実に触れてみる部分に当たるのだ。それに対して、計画をいろいろ練るのは、しっかりと練習を積んだ後の本番前のストレッチに相当すると考えている。

大切なのは修正する力

現実に第一歩を踏み出すことと、頭の中で計画を立てること、この順番を逆にすると、いつまでも本番に向けての練習を始めず、いきなりレース当日を迎えることになってしまうのだ。肝心なのは始めの第一歩だ。その第一歩は小さなことだって構わない。そもそも最初から大きなことができるわけもない。

そして踏み出した歩みをよく味わって欲しい。案外簡単に第一歩は踏み出せても、その後は考えていたことと全く違う現実が見えてきたりする。「こんなはずではなかった」との思いの繰り返しなのだ。

そこでまた大切なのが、現実を受け入れ修正する力を持っておくことだ。新しいことを築いていくのは、粘土細工のようなものと心得ておくとよい。

「やる」と決める決断力

「『知る』『学ぶ』『行動する』という順番を基本として、『考える』のは行動してからでも良いのだと思います」と言うのは手ぬぐいの老舗問屋を立て直した神野哲郎社長だ。

老舗の5代目を任された神野社長は、ある意味、ゼロから立ち上げるより歴史や伝統を抱える分、その改革には難しい面もあっただろうが、まず第一歩を踏み出すことで大きく変えることに成功した。

老舗を継ぐ立場というのはなかなかないだろうが、新しいことを始めることは誰しも長い人生の中で1つや2つ直面することだ。
その時を前に躊躇することなく、まずは「やる」と決めて第一歩を踏み出すことが大切なのだと思う。