行動していますか?

「うちは営業が弱くて」…とは思うように売上が上がっていなかったり、経済状況が変化して競争条件が変わったために売上がダウンしたりした企業がよく使う常套句だ。ある企業で本当に営業が弱いのかと思って、「新規顧客の獲得がゼロになっているが、前月に見積書を出した会社は何社ありますか」と聞けば、これは1社もないということだった。「では、見積書や提案までいかなくても、訪問など接触を取った会社は何社ですか」と聞けば、これもないとのこと。さらに「では、電話や紹介者を通じてアポを取ろうと試みたのは何社ですか」と聞けば、これまたないとの返事だったことがある。

これは、つまり営業が弱いのではなく、営業をまったくしていないということだ。営業が弱いのと、まったくしていないのとでは対応すべき課題はまったく異なってくる。同じ新規顧客の獲得がゼロであっても、見積書や提案書を出してゼロだったのであれば、それらの内容を見直す必要があるし、訪問などの接触までで終わっているのであれば、訪問時のヒアリングの見直しか、そもそも見込み客の候補の選定が間違っている可能性がある。アポを取ろうとしても取れなかったのであれば、アポ取り時の話し方の見直しが必要だろう。しかし、アポ取りすらしていないのであれば、これは問題外。「まずやれ!」の一言だけだ。

思い込みで営業することを避けていませんか?

これは決して笑い話ではない。話を聞いていると、そういう会社が多いのだ。頭から営業が弱い、だから営業力をもっとつけるために優秀な人員を採用しなければ…と悩んでいる経営者がいる。しかし、もともと営業をしていないのだから、優秀な人を採用できる余裕もない。だからどうしようもないと頭を抱えるのだが、課題を整理すれば何より動けていないということが分かるはずだ。ひょっとして課題を整理するのに必要な時間さえも取れていないということなのかもしれないが、どんなに忙しくてもそれができていないというのは、やはり経営者としてはどうかと思わざるを得ない。

また、その中には営業への苦手意識のためか、ネットで情報発信しているのだから、自分は動くまでもないと考えている経営者も多い。そういう経営者に聞けば、ホームページを作っていますとか、地元の商工会議所の企業紹介のリストに載せていますとかといった返事が返ってくる。これもまた、大海に釣り竿を一本垂らしているが、魚がかかってこないということを嘆いているのに等しい。釣り竿を垂らすにしても、ちゃんと魚のいるところに垂らさなければ意味はないし、その先に狙った魚が好む餌をつけているのかどうかも問題だ。それさえしないで、釣り竿を垂らしていても、魚などかかるはずはない。

顧客のための営業をしていますか?

営業が苦手という人は多いだろう。かくいう私もそのひとりだった。そんな私だったが、ある時、ふと何のために営業をしているのかを考えてみた。自分のため?自分の会社の売上を上げるため?あるいは、従業員の方だったら決められたノルマを達成しないといけないから?いろいろな考えがあって、多分そのどれも間違いではないのだろう。しかし、優秀な営業マンの過去の経験本などを読み漁ると、彼らに共通しているのが「顧客のために行っている」という意識がとても強いことに気づかされる。心の底からそう思えるようにすることで、営業にも本腰を入れて取り組んでいる姿がそこにあった。

彼らにしても始めから必ずしも優秀な営業マンだったわけではない。営業が苦手というのにはいろいろな理由があるだろう。だが私にとっては根本的に誰のための営業かを考え直すことが一番効果があったように思う。営業を自分のために行っているという意識のままでは、商品やサービスを売ろうとしても、どうしてもどこかに後ろめたい思いが生じてしまう。自分のために売ろうとしているのだから、当然といえば当然だろう。これだと営業にも積極的な姿勢になれず、いつまでも苦手意識が抜けることはない。営業成績を上げていった営業マンは、自分の仕事も所詮、顧客がいてくれてのものだと気づいている。

その商品やサービスに絶対的な自信がありますか?

私も自分の商品やサービスが顧客のビジネスや生活に加わることで、顧客は今より豊かになれる、自分はそれを売ることで、人の役に立っている、世の中のためになっていると思えることで前向きな行動がとれるようになった。だからもちろん、自分の売る商品やサービスに独りよがりでない絶対的な自信を持つことが必要で、そのための努力を欠かすことはできない。営業が苦手という人や企業の中には、自分ひとりで、あるいは社内で商品やサービスを一層練り上げることに関しては抵抗がないことも多い。納得するまでそれらの開発に没頭もする。

これが大企業だったら、どこか他の部署にいて商品やサービスをただ売るしかなくなるので、それがつらいというのはあり得る話だ。しかし、個人で事業をしていたり、限られた従業員しかいない中小企業でなら、たとえ自分が営業の一担当者でしかなかったとしても、顧客のための商品、サービス開発に営業の立場から意見したり、独自に工夫を加えることはまだ容易ではないか。ここさえクリアできれば、後の営業に関する問題は繰り返し対策を練ることで乗り越えることができるのではないだろうか。営業が苦手と思っている間は、まだまだ顧客に真から寄り添っていないことの証なのかもしれないと感じている。