問題は目標の高低ではない

年間計画や中期計画を作る時、年間の売り上げなどの数字をどうやって決めているだろうか。

例えば、伸び率を景気が悪いからといって前年並みに留めておくのか、逆に強気に20%増にするのか、30%増にするのかといった場合、経営者にとっては高ければ高いほど良いのに決まっているが、目標が過大になれば絵にかいた餅で終わってしまう。逆に低すぎても、職場に弛みが出るなどの弊害が予想されたりする。

そんな時、「問題は目標値の高い低いでなない」というのは京セラ名誉会長の稲盛和夫氏だ。稲盛氏は「経営目標とは経営者の意志そのものなのです。そのうえで、決めた目標を社員全員に、『やろう』と思わせられるかどうかなのです」と同氏の著書の中で指摘している。

経営者の想いを貫く

「経営目標という経営者の意志を全従業員の意志に変えるには、やはりトップダウンでしかありません」とし、「今までは低迷してちっとも伸びてくれなかったが、今年は思い切って倍ぐらいに会社を発展させようと思う」とまず社長の方から働きかけ、「いざ目標として『今年は倍やろう』と言った時に、周りの者が『一緒にやりましょう』と自然に言うような雰囲気を作ることが必要なのです」という。


表現こそ異なるが、「プロフェッショナルマネジャー」を執筆したハロルド・ジェニーン氏は「本を読む時は、初めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」と述べている。

これを読んだファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は、当時、「僕がやってきた経営は違う」「僕の経営は甘い」「経営するとはこれだ」と思わざるを得なかったという。

経営は結論ありき

柳井氏は言っている。「僕はカジュアルウェアの郊外型店をやったら面白いかもしれないという漠然とした思いを、ゼロから始めて一つひとつ形にしていくことが経営だと考えていた。その努力が大切だと。」。しかし、ジェニーン氏の経営論を読んで、「僕の経営概念は180度変わった」。

「経営はまず結論ありきで、最終的に何を求めて経営していくかを決め、そこから逆算して、経営に至る方法を考えられる限り考え、いいと思う順からまず実行する。

そして、実行の足跡と結論を常に比較し、修正していく。『そうすれば、大概のことはうまくいくんだよ』というジェニーン氏のメッセージを、この本から僕は確かに受け取った気がした」。

まだまだ甘さが残っていないか

稲盛氏にしても柳井氏にしても、その実績、実力は誰もが認めるところだ。彼らの経営者の役割に対する考えを知ったときに、私は心を揺さぶられるくらいの衝撃を受けた。

私の考えの甘さが、そのまま会社の業績となって現れていないか、「会社は経営者で決まる」ということの意味を本当に知った思いがした。

要は心構えからして違っていたのだ。稲盛氏も言っている。「結局、目標数値を決め、みんなの目標をそれに向かって燃えさせる、というのが経営者のもっとも大事な仕事だということなのです」。

それはたとえまだ従業員がいない起業したての企業にとっても同じこと。経営者としての甘さが残っていては、何のための苦労を積み重ねているのか分からない。