リーダーの条件

「リーダーに必要な条件として、一つは『夢見る力』、二つ目は『気を満ち溢れさせる力』、三つ目は『伝える力』が必須だと見ている」と話しているのはJR九州の唐池恒二会長だ。JR九州は一昨年、発足30年の節目に東証一部上場を果たした。同社が手掛ける日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、運航開始から抽選平均倍率が16倍を超える人気ぶりで、第一回「日本サービス大賞」内閣総理大臣賞を受賞するなど脚光を浴びている。

その唐池氏が一つ目に挙げた「夢見る力」の「夢」は、展望や理想という言葉にも置き換えられることができるだろうが、そういう目指すべき姿を明確にしないと組織は発展していかないとよくいわれる。

その件について、私がすぐ思い浮かべるのはソフトバンクグループの孫正義会長兼社長だ。孫氏がソフトバンクの前身となる会社を創業したのは1981年のことだった。

感動を与えているか

孫氏は創業したその日に、若いアルバイト社員2人を前にして、ミカン箱の上に乗って、「5年後には100億円、10年後には500億円、30年後には1兆円にする」と言ったそうだ。その2人は程なくして辞めたそうだが、孫氏の会社はどうなったかというと、30年後に1兆円どころか、3兆円の売り上げになった。もちろん孫氏の実行力や経営感覚には常人にはないものがある。しかし、まず「ここに行きたい」という夢を見なければ、到達するわけもない。

そして、その夢や自分の考えをいかに社員に伝えるかがとても重要になる。伝えたつもりでも、現実に相手に伝わっていないということは多い。そんな時は「伝えた」とは言わないものだ。それは一方的に「しゃべりました」、「書きました」というだけのことだ。まずこちら側の伝えたいメッセージに対して、相手に興味を持ってもらうが大切。次にそのメッセージの内容を理解してもらう。そして、それだけで終わってはダメで、加えて相手に感動を与えなければならない。相手がこちらのメッセージに感動し、行動に移さなければ本当に伝えたとは言えない。

考え抜いて出てくる「ひらめき」

夢に向かって気を満ち溢れさせるところから「ひらめき」も生まれる。ひらめきは何もないところからは生まれてこないものだ。唐池氏も「そのことについて毎日ずっと考え抜いているうちに、頭の中にアイデアの鉱脈のようなものができ、それが何かの拍子にポッと外に出てくる」と自らの体験を語る。

唐池氏ご自身、数々の観光列車を手掛けてきた経験を振り返って、「そのネーミングにしてもパッと思いつくわけではない。何度も現地を訪れ、現地の人の話に耳を傾け、現地の歴史や文化を調べ、その地域のことを徹底的に勉強し、とことん考え抜き、そしてまた勉強し…。そうやって大変な時間と労力をかけて初めてネーミングの神様が降りてくるんです」と話す。

実際に「ななつ星」のネーミングは、最初に世界一の豪華な寝台列車を作るというビジョンを打ち出し、九州7県を巡り、それぞれの県の魅力を世界に発信し、星のように輝かせたいという思いを込めて名付けたそうだ。

理解してもらうだけでは不十分

唐池氏の掲げるリーダーの条件は、そのまま企業が宣伝する際にも同じことが言える。ある新商品があった時、まず「どんな商品だろう」と興味を持ってもらい、「こういう商品なのか」と理解してもらった上で、「この商品はすごいな」と感動してもらうことが必要になる。それが一般には「理解してもらう」ところで終わっていることが何と多いことか。「感動」するところまで行かなければ、購入にはつながらないのだ。「ななつ星」の観光列車でいうと、世界一という夢に作り手の気が満ち溢れて、その思いが顧客に感動という形で伝わったということだ。

そのためには、まずリーダー自身が顧客が何を求めているかを一生懸命に勉強し、悩み、考え抜き、次々にひらめいていけるように努力を重ねなければならない。世にいう「伝える」とはかように決して簡単なことではないということが分かる。