とりあえずのWebサイト

私が起業を思い立ったのは今から2年半ほど前の話になる。ある事情があって、以前勤めていた会社を辞めた時は、次に働く宛てがあったわけではなかった。今から思えば、その時すでに50代後半にあって、いくら何でも無謀過ぎた。でもそれが痛切に思い知らされたのは、会社を辞めて、次に働く会社を探そうとした時だった。そう、その時の私はまだ別の会社に働き口を探そうと思っていたのだ。まったくお恥ずかしい話だ。案の定、そんな会社が見つかるわけもなく、途方に暮れた時に初めて現実を直視し、それなら自分で起業するまでと思い切ったのだった。

こんな時、私は割と思い切りの良い方だと思っている。それが良い時もあれば、会社を辞めた時もそうだったが、悪い方に出ることもある。そして一端思い立ったら、後は周囲の意見も耳に入らなくなるのだ。今だから冷静にそんな風に思うのだが、もちろん当時は周囲の意見に耳を貸す余裕もない状態。まさに猪突猛進というやつだ。それからも紆余曲折あって起業に至るわけだが、ここでは割愛する。その私が、起業に当たってまず必要なもののひとつが、Webサイトであることを思った。最初から、会社の営業の主力をこのWebサイトに託すつもりだった。

「割安感」に騙される

今でもWebサイトについては、形だけ整えればいいと、最低限の費用しかかけず自分で作る人もいるようだが、私はどちらかと言えば、自分の子供のように大切に生み、そして育てるものだと思っている。だから、起業する際にきっちりとした業者に任せたいと思い、当時の私としては思い切って50万円(消費税込み)をつぎ込むことにした。正直言うと、この50万円というのが安いのか高いのか分からなかった。何故、そうしたかというと、ネットで業者を探す際に、その専用のサイトの担当者から言われた無難な額がそれだったからだ。当時、私の周囲にはWebを制作するものなどおらず、ただ「大阪では50万円で済んでも東京の方では80万円が相場」と言われ、それだけで割安感を感じてしまっていた。

私はネットで50万円でWebをつくってくれる業者を探すことになったのだが、ちなみに、今、私が知る限り(内容はともかく)15万円前後からWebサイトの制作を業者に頼むことができるのではないだろうか。とにかく複数の業者が名乗り出てくれた。その中から選んだのは、そこが一番熱心にコンタクトを取ろうとしてくれたからだった。その時の私に他に選ぶ基準は思いつかなかったのだが、結論から言うと、まずこれが大間違いだった。予定通りWebサイトができはしたのだが、原稿はすべて自分が書いたもので、会社紹介のパンフレットのような感じだった。しかし、これは結論から言うと、それだけでWebぺージへの訪問者が来るわけでもなく、何の役に立ったわけでもなかった。その後、修正しようとした際には追加料金を支払う必要があり、結局、私はそこからほんの1年半ほどの後に、また別の業者を使ってWebサイトを作り直すはめになったのだった。

Webサイトを作る前の準備が大切

一般にWebサイトを作る業者には、①デザイン重視の会社、②マーケティングから入る会社の2通りがあるとされる。どちらも大切ではあるのだが、①のデザイン重視は、見た目で訴える。一瞬、何だか凄く立派なものができたように思うが、極端な話、同業他社とほとんど一緒のデザインだったりする。つまり過去にその業者が作ったデザインを押し付けられただけなのだ。そして、自分の会社の言いたいことが伝わらない。こうすれば売れるというビジョンも何もないから、まったく反応もない。私が任せた業者のタイプだ。後から考えると、何故あれで50万円もかかっているのかと疑いたくもなる。

実際は①と②の業者に2分されるものではなく、その間で業者がそれぞれに分布している。良いWebサイトを作るには、作業をまったく業者に任せて良いわけではない。まず発注する側にも準備が必要だ。それは、事業を通じて何をしたいのかといった社会に対する想いであったり、そもそも自分の強みは何なのか、どこで他社と勝負をするのか、売れる仕組みづくりはできているのか、Webサイトで何を目的にするのか、などなど。良い業者ならそうしたことの相談にも乗ってくれるだろう。でも自分があくまで主体的に考えなければならないのは当然のことだ。

苦情を防ぐことが大切

Web制作会社といっても実態はデザイン会社やシステム会社、広告代理店であったりといろいろなのだが、調べてみると過去にはいろいろな苦情の例がある。

「無料(又は格安)でWebサイトを作ります」といって、完成したものはありふれたテンプレートにただ押し込んだだけの貧弱な作り。約束していた完成後のサポートも一切なし。これは私が経験したものに近い。このほかにも、「ドメインの取得から管理まですべて行うので楽」と顧客を口説いて、その「.com」や「.jp」といったドメインの所有者を自社に設定し、顧客が制作会社を乗り換えられなくするもの。「初期費用〇万円。後は検索順位が上がってからの成果報酬型なのでリスクが少ない」といって、初期費用が入金されても何もしない。顧客自身がサイト自体の内部SEOを行って順位が上がった場合は、当然のごとく成果報酬を請求するもの、などなど。

ここに挙げたのは、苦情のごく一部だ。そうした苦情を防ぐためには、繰り返すが、自分でWebサイトの押さえるべきポイントを予め持っておかねばならない。予算額などもしっかり持っておいた方が良い。自分で作るのも選択肢としてはありなのかもしれないが、Webサイトがこれからのマーケティングの大本となることを考えれば、やはり私は業者に任せた方が良いとは思うのだ。