インダストリー4.0がいよいよ現実に

製造業の生産性を飛躍的に高める概念「インダストリー4.0」が欧州で普及段階に入ってきた。人と協同作業する「コロボット」、工場の状況をコンピューターで再現する「デジタルツイン」など、以前は構想段階だった技術が目に見える形になってきている。

だが一方で、欧州でもIoT(モノのインターネット)関連システムやロボットなどは大手企業向けがまだまだ中心であり、中小企業のデジタル技術の活用は遅れているという課題も残る。

インダストリー4.0の狙いは、モノづくりの標準化と自動化にある。日本ではインダストリー4.0が「日本のモノづくりとそぐわないのでは」という意見がまだまだあるが、そうした意見をいろいろ聞いても、日本の企業が置かれた状況を考えると、インダストリー4.0の流れに目をつぶるのは言い訳にしか聞こえない。

「感覚的にはこんなもの」、「言葉では説明できない」といった高い技能に頼る世界を続けていては、少子高齢化の中で立ち行かなくなることは目に見えているし、実際にそれは現実に問題として起きている。やはりそれらの技能を「見える化」し、世代交代を円滑に進める必要があるのではないだろうか。

危険性に合わせてロボットの速度が変貌

スイス・ABBグループは安全柵が不要なコロボットの試作品を、4月下旬に開催されたドイツの産業見本市「ハノーバーメッセ」で展示した。ハノーバーメッセは世界最大級の産業見本市。インダストリー4.0の格好の成果発表の場となった。

普通、ロボットが稼働する工場では、安全柵を設置してロボットに人が接触して事故になるのを未然に防ぐ。しかし、このABBグループが開発したロボットは、そばに据え付けたセンサーで人が近づいたことを検知すると、人が触れてもケガをしないくらいにロボットの動きがゆっくりになり、さらに近づくと停止する。人に触れたら停止する他の方法に比べて、協同型ロボットを大型化できる可能性が見えてきた。

ドイツ・SAPはドイツ・大手化学メーカーのBASFに、機械メーカーや保守サービス業者らと生産設備のデータを共有するシステムを納入した。共有するデータの種類は相手企業によって変えられ、保守の履歴などは「タイムライン」と呼ばれる形式で見やすくモニター表示する。タイムラインとはビデオ編集やTwitterのツイートを時系列に一覧表示したり管理する機能。会員制交流サイト(SNS)でお馴染みの機能を工場でも実現した形だ。

すり合わせ文化も一変する力

ドイツ・シーメンスはIoT基盤「マインドスフィア」の最新版で、メーカーが異なる機器同士を簡単に相互接続できるようにした。これにより、設計から製造、出荷後までコンピューター上で再現し易くなり、「真のつながる工場」の実現が可能になるという。

ドイツ・ベッコフォートメーションはアマゾン・ドット・コムの音声認識人工知能(AI)「アレクサ」を使い、音声で機械を操作できるシステムを開発した。さらに自社の高速通信規格「イーサキャット」と第5世代移動通信(5G)を組み合わせ、リアルタイムに製造現場の状況を共有するシステムも試作した。無線通信はデータ転送に遅延があるため、工場間のデータ共有に不向きとされていたが、そうした考えを覆した。日本企業からも「早く実証導入してみたいという声が届いている」とベッコフォートメーションの川野社長は話している。

ハノーバーメッセを見学してきた日本人は、一様に「これまでコンセプトに留まっていたものが、いよいよ製品として出てきた」と感じたと興奮を抑えられない。日本では産業機械のプログラム言語は分からなくても、プログラム言語自体の知識水準が高い若い世代が多くいる。経営層だけでなく開発や製造現場まで世代交代が進もうとする動きを後押しするように、日本のすり合わせ文化も変えていくほどの力になろうとしているようだ。

費用対効果の高いオープンなIoT機器を

しかし、現実にはまだまだドイツでも産業界全体にこうした動きが普及するにはハードルがあると見られている。「ドイツではデジタル革命に取り残されている中小企業が少なくない」という相次ぐ声がそれだ。

ドイツの中小企業は日本同様、輸出をけん引する強い存在だ。だが、ドイツ国内では、「日本以上に中小企業が先端技術に食いつくスピードが遅い」と心配する向きが伝えられている。

IoTに対する対応の必要性は分かっていても、いったん使い出すとなるといろいろなソリューションが必要になり、結局投資がかさむことになってしまう。インダストリー4.0の本場であるドイツにおいても、それでは中小企業にとって敷居の高いものになってしまい、導入に二の足を踏むことに繋がっているのだろう。

欧州企業が仕掛けるIoTサービスは構想が壮大だが、日本のように現場に根差した簡便なIoTツールは不足しているようだ。モノづくり革命で産業界を底上げするためには、中小企業が導入しやすいサービスやツールも必要となる。中小企業のそれぞれの困りごとに応じて、費用対効果の高いツールを抜き出して使えるようなオープンなIoT機器が望まれている。