3か国で招致争い

「技能五輪」というのをご存知だろうか。職業訓練の振興を主な目的として2年ごとに開催されている。その技能五輪の2023年に予定されている第47回大会の国内開催に向けて、招致活動がスタートしている。

日本では4月に招致委員会が発足、政財官と愛知県などが連携しながら2007年の静岡大会以来、16年振り4回目の日本開催を目指す。技能五輪国際大会の成果は産業の国際競争力と結びつく。1960年代から70年代には技術で世界をリードした日本は、最近は韓国や中国といった新興国にその座を奪われているだけに、大会開催を機会に技術や技能を見直す機運を醸成し、「モノづくり日本」復活につなげたいところだ。

この原稿を書いている今のところ、第47回大会に立候補を予定しているのは日本のほかにも、フランスとスイスがある。日本を含む3か国でこれから激しい招致活動が繰り広げられる見込みだが、日本に勝算はあるのか。そのポイントの一つは過去の開催回数だ。

日本は過去、第19回の東京、第28回の大阪、第39回の静岡と3回の開催実績を持つ。一方、スイスでも日本同様、3回の開催実績を持つ。2003年のザンクトガレン大会以来の20年振りの招致を目指すなど、条件としては日本とほぼ同じような立場にある。

最大のライバルはフランス

最大のライバルになりそうなのがフランスだ。フランスは過去1回しか開催していない。2025年の国際博覧会(万博)招致を目指していたフランスだが、今年2月にその立候補の辞退を急きょ表明した。万博から技能五輪に鞍替えしたともいわれているが、その裏側にはフランスが抱えるお家事業があるとされている。

フランスのフィリップ首相は、昨年11月に「フランス製造業界の大きな目標」と題した製造業再興戦略を発表した。これはフランスにおける産業構造の転換を意図し、「フレンチファブ(生産拠点集約化)による製造業変革」、「イノベーション能力の強化」、「専門能力と専門教育の刷新」を打ち出している。

フランスでは製造業が国内総生産(GDP)に占める割合は約12.6%で、同じEU主要国であるドイツの23%に大きく離されている。「大会招致を自国の製造業復権に向けた手段として活用したいのでは」と見られている。

こうしたフランスが抱える事情に加え、過去のフランスでの開催が1995年のリヨン大会のみということもあって、日本にとっての強力なライバルとされているのだ。

常勝日本からの転落

技能五輪国際大会は、オリンピック・パラリンピックや万博といったメジャーな国際イベントに比べて地味な存在ではあるが、その結果を見るとその時々の産業力を密接に関係しているのが分かる。特に金メダル獲得数の上位国は、当該国の産業力や国際競争力の高さを反映している。

日本がこの大会に初めて参加したのは1962年のスペイン・ヒホン大会。結果は2位に終わったものの、わずか8人の派遣で5個の金メダルを獲得するという驚くべき成果を上げた。派遣人数を増やして臨んだ翌年の大会では初めて1位となり、その後の10大会のうち6回トップを取ったことで、世界に「モノづくり日本」を強く印象付けた。そして、それは日本の高度成長期の軌跡と重なる。

その「常勝」に陰りが見えてきたのが70年代後半。60年代から農業国から工業国へと舵を切り国家戦略として技術力向上を目指してきた韓国の台頭で、日本はトップの座から転げ落ちた。韓国は1977年のオランダ・ユトレヒト大会から1991年のオランダ・アムステルダム大会まで9大会連続首位という驚異的な成績を残した。

日本はその後も台湾やブラジル、中国といった新興国の後塵を拝し、特に中国が初めて首位に立った2017年のアブダビ大会では、史上最低の9位に甘んじている。

 

モノづくり日本の復活へ

最近の技能五輪の開催実績、日本のメダル獲得数は以下の通りだ。

     開催年  開催地        参加国数  日本の合計メダル獲得数
第39回 2007年 日本・静岡         46       24
第40回 2009年 カナダ・カルガリー     46       14
第41回 2011年 イギリス・ロンドン     52        19
第42回 2013年 ドイツ・ライプツィヒ    53        12
第43回 2015年 ブラジル・サンパウロ    59        13
第44回 2017年 アラブ首長国連邦・アブダビ 59        9
第45回 2019年 ロシア・カザン       ―       ―
第46回 2021年 中国・上海         ―       ―

今後日本は10月に開催されるワールドスキルズインターナショナル(WSI)」総会で立候補を正式に表明し、招致活動を本格化する。国の外交ルートだけでなく民間の経済交流の中でも日本支持を働きかけることになっているという。

技術や技能は今後AI(人工知能)などが進化しても、革新的なアイデアを具現化するためには人間の技能が不可欠といわれる。そういう意味では、日本の産業発展という観点からも技能をおろそかにはできない。日本のこれからの底上げに期待するところは大きい。

愛知県招致が実現すれば、技術や技能に対する国民意識の高まりに再度つながり、減少しているモノづくり人材の育成・強化も期待される。そして、何よりも各企業で技術力向上への動機づけになる可能性が高い。それだけに技能五輪国際大会招致に向けた動きは、「モノづくり日本」の復活へ向けた、将来を左右する存在になりそうだ。