危機をバネにできるか

多くの人が指摘しているように日本の企業の生産性の伸びは低調だ。データが示している。だから潜在成長率も非常に低くなる。その生産性を上昇させる原動力として最も期待されているのが、急速に進展するデジタル技術だとされる。それをビジネスの転換に活用するDX(デジタルトランスフォーメーション)を活性化させることが必要であることもいろいろ指摘されているところだ。日本では米国や中国に比べてこの動きがこれまで非常に鈍かった。それがその流れをコロナ危機が変えるのではないかとする期待が集まっている。

危機をきっかけに経済や社会が大きく変わるのは、今回に限ったことではない。明治維新だって、黒船の脅威に危機感を抱いた多くの人たちのエネルギーが結集して成ったものだ。戦後の経済成長もそうだ。今回もDXを積極的に進めない限り、競争に生き残ることが難しいと考える企業は増えている。実際、オンライン会議などをうまく利用した場所を選ばない業務形態を実行できる企業とそうでない企業は差がついてくるだろうということは容易に想像できる。小売業ではアマゾンのようなネット販売との競争の深刻さはますます増してくるだろう。

必要性は頭で分かっているのに

それでも大企業はともかく、中小企業の動きは私が思っているほど芳しくない。何故だろうと思っているのだが、いろいろ話を伺ううちに、いくつか原因が隠れているように感じられている。まずはそれを自覚して自ら乗り越えないと、なかなかDXの導入を始めとする改革を進めることはできないのかもしれない。

まずその1つが、多くの中小企業経営者がITベンダーからいろいろな新しい“横文字”を使って高価なシステムの入れ替えを「させられてきた」という、これまでの潜在的な不満が溜まっていることがあるように感じられる。「また自分たちに都合の良い理屈を引っ提げて、あの手この手で売り込みを図ろうとしているな」という警戒感を露わにしている経営者が多いのだ。

しかし、私のような第三者が見ていると、むしろ問題は中小企業の社内にIT人材が不足していて、ITベンダーにシステム構築を丸投げしてきたことから、社内にノウハウが蓄積されていないことのように思える。だから、今回のDX化への投資が必要なものなのかどうかも冷静に考えられなくなっているのだ。そうしたことに対しては、今回、改めてDX化に取り組む必要性、それによって何をどう変えるのかをじっくり検討する機会にする必要がある。そして願わくば、社内人材の育成に力を入れる具体的な行動までとっていくべきだろう。

できない理由はいろいろあっても…

DXを進める際、新しいデジタル技術を取り入れる必要から、ITシステムを更新しなければならないことが多い。そのため、特に中小企業では「今のシステムが問題なく動いているのに、システムを新しくする必要はない」と判断をしがちだ。しかし、これはITシステム自体に的を絞って考えるからそうなる。DX化の目的は事業や組織を変えることであって、ITシステムの更新はその手段に過ぎない。この順番を取り違えてはいけない。ITシステムありきではなく、まず自社の事業、組織をどう変えるのか、そのためにどんなシステムを導入する必要があるのかを考えなければならないのだろう。

企業によっては、「DX化しなくても事業が継続できている」と考えているところもあるようだ。実際、コロナ下で事業に困っている企業ばかりが目立っている感があるが、一方で好調を維持していたり、中には「絶好調」と言ってのける企業もあるのは事実だ。ただ、今の社会の中で、それを声高に言うことが憚られているだけだ。しかし、今が好調に推移しているからといって、将来も大丈夫と断言するのは短絡的過ぎる。顧客や社会が変わろうとしている時に自社が留まっていては、今の立場もどんどん劣化していくのは当然の理だ。ここは長期的な視点に立つ必要がありそうだ。

身の丈に合った取り組みから

一方で、「DXですべてを変えるなんて無理」と、ITベンダーやコンサルタントなどが言っているような宣伝文句に尻込みしている例も見られる。その宣伝文句にも問題はあるが、そもそも何か一つの手段でもってすべてを変えられるほど世の中は単純でもないし、甘くないとわきまえるべきだ。資金も人材にも限りがある中小企業ならなおさらだ。早い話、顧客とのやり取りや役所への各種手続きをデジタル化するだけでも、相当な時間、コストの節約につながることも多い。ゼロか100かという二者択一でなく、身の丈に合ったDXへの取り組みから始めてみるのがコツだろう。

最後に否定するような話をして何だが、皆がやっているから「うちも何かDXを始めなきゃ」と考えるのも、順番が違う。DXの必要性は業種や事業内容によって異なるのも事実だ。何が何でも無理やり取り組むというのでなく、やはりここは社会や同業者などの変化に対して自社がどう変わるべきなのか、それには何をどうする必要があるのか、そのためにDXをどう利用するべきなのかと考えるのが王道だ。DXにばかり注目が集まりがちだが、本当はこの機会に自社の在り方を見つめ直すことの方が大切なんだとも言える。「DX元年」と言われる今年、是非それぞれの企業の発展・飛躍の年であってもらいたい。

株式会社 大阪エルシーセンター CUBE電話代行サービスグループ
CUBE電話代行サービスでは、実際に電話応対をしているオペレーターが、電話代行サービスの魅力やビジネスに関する情報を発信しています。日頃の電話応対のノウハウや様々な業種の導入事例等、電話応対にお悩みの企業様や、電話代行を検討している方は是非ご覧下さい。