非常時は決断を優先

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が3月に表明したように「パンデミック(世界的大恐慌)」の様相を呈し、各国がそれぞれに国家的危機に臨むところとなった。各国はそれぞれに対応し評価はいろいろあるが、この国家的危機に臨む体制として歴史的に知られているのが、共和政時代の古代ローマにおける「ディクタートル(独裁官)制度」だ。これは平時には毎年2名の執政官を選挙で任命して政治を切り盛りしていたが、外敵の侵入や疫病の流行、政治的な混乱など、国家の非常事態が発生した時は、通常6か月という短期間に限り1人の人物に全権委任して危機管理に当たらせた。

これは非常事態に当たっては権力が分散されているのは非効率的だということで、そうした場合に限り、ローマはただ1人に強大な権力を与えて事態に対処させることにしたのだ。そして大切なのは、その期間中、国民はディクタートルの決断を批判せず、全面的に従うこととなっていたことだ。これはまさに、リーダーの決断に対して、国民が積極的に、また自主的に協力するという「フォロワーシップ」の関係が築かれていたということに他ならない。どんなに優れたリーダーがいても、これに国民が協力しないようでは何事もうまくいかない。

有事と平時

平時と有事で決定的に異なるのは時間的な要求だ。「船頭多くして船山に登る」という言葉があるように、小田原評定ばかり重ねても時間がかかるばかりで結論が出ない。今回の新型コロナウイルスの感染拡大の場合も、決断に時間がかかればそれだけ感染が蔓延することになってしまう。だから「ディクタートル制度」は日々刻々と変化していく状況に対して素早く決断し、実行していくことが求められる危機管理の在り方に合致した制度であるといえる。しかし、だからといって現代の民主主義国家の日本で古代ローマの「ディクタートル制度」をそのまま適用せよと言っているわけではない。

ただ危機管理で求められる本質は現代であろうが、古代であろうが何ら変わらないはずだ。危機の間は国家のリーダーである総理が英知を集めて迅速に決断し、国民はそれに積極的に従う。そして危機が去った後でリーダーの決断が正しかったのかどうかの検証を徹底的に行う。万一不満があるのであれば、選挙で落とす。これが現代の民主主義制度下の「ディクタートル制度」であって、国家の危機に対する原則であろう。それが実際にはどうであったのだろうか。あるいは、これから先どのように動いていくのだろうか。新型コロナの第2波、第3波も予想される中で、その判断は個々に委ねようと思う。

企業の意思決定は大丈夫か

国家のことはさて置くとしても、差し迫った問題として考えなければならないのは、企業活動における意思決定の在り方だ。国家と同様、今回の有事に際してそれはうまく機能していただろうか。求められるところは国家と変わりない。この読者の中には中小企業や個人事業主の方も多くおられるだろう。そうすると有事、平時に関わらず、常に権力は経営者1人が握っているという状態かもしれない。そこは良いとしても、それならその権力を使って有効に対処できただろうか。有効に対処できたのなら問題ないかもしれないが、できていなかったのなら、何が問題だったのだろうか。

もう一つ、危機管理の大切な要諦に、「情報の集まるところに権限を委任する」ということがある。特に前例のない危機においては、それに関する情報が最も入ってくるのはやはり現場だろう。ということは、一番何をすべきかを知っているのも現場ということになる。この現場に対応を一任し、責任はトップが取るというのが危機管理の基本的な在り方として挙げられるのだ。実際、アメリカの連邦緊急事態管理庁(FEMA)には「FEMAの原則」というのがあって、①腹心(信頼できる部下)を現場に派遣せよ、②現場に裁量の権限を委任せよ、③日頃から信頼できる部下を育成せよ、というシンプルな対応の原則がある。

今こそBCPの策定

こうした原則とも突き合わせて、今回の対応をチェックしてみるといいだろう。新型コロナだけについても、第2波、第3波の感染拡大が来るといわれている。今ならまだそれらに間に合うかもしれない。

より本格的な企業の危機管理対策として、最近BCP(事業継続計画)の策定が大企業を中心に進んでいたが、中小企業や個人事業主にはどうだっただろう。自社を守るためには、その取引先なども含めた経営資源を守ることが必要になってくる。そこで共同でBCPを策定するとか、代替設備を準備するといったように、他社との連携や再調達計画が必要になってくる。さらに自然災害だけにとどまらず、為替の変動や自社をターゲットにしたサイバー攻撃、自社の不祥事やキーマンの退社など、さまざまなリスクに対する非常時対応マニュアルと事前計画も必要になる。

実に面倒な話ではあるが、今後の企業経営には必要なものに違いない。鉄は熱いうちに打てーではないが、まだ新型コロナウイルスの影響が生々しく感じられている今のうちに、こうした反省と対策を進めておかなければ、また次の危機到来の際に同じような戸惑いと他人任せの対応を繰り返すしかなくなる。

株式会社 大阪エルシーセンター CUBE電話代行サービスグループ
CUBE電話代行サービスでは、実際に電話応対をしているオペレーターが、電話代行サービスの魅力やビジネスに関する情報を発信しています。日頃の電話応対のノウハウや様々な業種の導入事例等、電話応対にお悩みの企業様や、電話代行を検討している方は是非ご覧下さい。