ネクタイを締める?締めない?

街中を歩いていると、今や季節が真夏でなくてもネクタイを締めている男性が減っていることが分かる。増して5月にもなれば、「クールビス」の名のもと、多くのビジネスマンはネクタイをしない。今やネクタイ市場は10年前と比べて半減しているといわれている。が、市場関係者には大変申し訳ないが、私にとってそれは、「まだ半減しかしていないのか」という驚きの方が大きい。元来が無精な私は余程のことがない限り、ネクタイのような自分の首を絞める窮屈な格好をわざわざしたいとは思わない。そして、その判断を自由にできることが、会社を辞めて独立した一つのメリットでもあると思っていた。

しかし、その「まだ半減しかしていない」、つまり「まだ半分はネクタイを必要としている」というところが悩ましい問題として考えさせられるところでもある。私がいくらフリースタイルを気取っても、世間から見ると、まだまだネクタイをするのが当たり前という場面はある。例えば、今も私が悩むのは、初めての顧客を訪問する時。特にそれが「伝統ある」会社のトップであった時などは、やはりネクタイを締めていった方が無難と考える。微妙なのは、お会いする方が担当者レベルの方であったり、経営者トップであってもIT系の会社であったりする場合だ。

気後れするぐらいなら…

これは何もお会いする人によって差別をしているということでは決してない。お会いする相手がネクタイをしていると、気の小さな私などは、私がネクタイをしていないとそれだけで気後れがしてしまうのだ。いくら普段フリースタイルを気取っているとはいっても、最初の印象でこちらが遅れをとれば、それを挽回するのにまた一苦労するという気分になる。まあ、それだけ自分に自信がないということの現れでしかないのかもしれないが。だから、その日会う予定の人に合わせて、朝、ネクタイをしようか、どんな格好で出かけるかをしばし考えることになる。

緩やかになる一方の服装基準

こうした服装で時代の先端を走るアメリカでも、服装の基準は緩やかになっているといわれる。今では銀行員の間でもネクタイは消えつつあるという。そして、結婚式や礼拝でさえもスニーカーを履いていくのだそうだ。ある記事によると、アメリカ人の半数は、ジーンズで仕事に行けるといっている。かつて、「カジュアル・フライデー」の導入が話題になっていたのが、今では多くの会社で1週間の間、ずっとカジュアルになっているのだという。仕事に着ていく服と週末や休暇中に着る服の違いがあまりなくなり、衣類に費やす費用も減っているそうだ。

しかし、だからといって、小売業者はスーツなど、きっちりした服に見切りをつけたわけでもないそうだ。確かにデパートの紳士服の売り場面積と並べられている商品の数は極端に減少している。こうした流れは、シリコンバレーからカジュアルファッションが広がった1990年代のはじめ頃から変わり始めたものと伝えられている。しかし一方で、オーダーメードの服の需要も高まっているのだそうだ。もちろん、そうした中でも、従来のグレーや紺や黒色のスーツでなはく、スタイルの型は格子柄やピンストライプなど、柄物のスーツに移行しているのだというのだが。

難しいプロとしての品格の維持

服の変遷はその周辺にも及ぶ。ビジネスマンの必需品だったアタッシュケースはリュックサックにとって代わられ、靴もウィングティップと呼ばれる靴紐を結ぶタイプではなく、ひもがついていないスリップオンやスニーカーなどが幅を利かせるようになった。こうしたトレンドを象徴するのが「アスレジャー」(アスレチックとレジャーを合わせた造語)で、「アクティブウエア」とも呼ばれ、もともとはジム用にデザインされたファッショナブルなウエアをオフィスなどで着ることが流行するようになった。こうした流れは健康志向に加えて、オフィスの服装規定の緩和とも深い関りがあるのだという。

日本だけでなく海外でもどんどん緩やかになる服装規定。しかし、だからといって何を着ても許されるというものではない。せめて相手に対して失礼にならない程度の品位と、自らのプロとしての品格が求められるのはいうまでもない。その最低限の領域を犯すと、マナー違反になる。私が毎日、鏡の前で悩むのもフリースタイルの自由さと求められるプロとしての品格との葛藤だ。これから夏場に向けて、ますますその悩みは深まってくる。以前のように毎日同じ背広であっても、それを着さえすればある程度格好がついた時代なら、こんな理屈をこねくり回すこともなかっただろうが。