誰でもいいわけじゃないはず

人手不足の時代、「猫の手も借りたい」というのが経営者の本音であるかもしれないが、私に相談が持ちかけられた時は、逆に求める人材像や働く上で求められる「コンピテンシー」をしっかり押さえてから人材採用に臨むようにとアドバイスしている。そうでないと、採用してから後悔するようでは、採用した側だけでなく、採用された側にとっても時間の無駄だし、互いに不幸だと思うからだ。事実、何となく「優秀な人」を求めて採用活動をするより、自社に必要な「コンピテンシー」を押さえることで、「人を採用しやすくなった」「採用に困らなくなった」と振り返る経営者は多い。

この「コンピテンシー」という言葉、日本語に訳すと、高い業績を上げる人に共通して見られる「行動特性」と呼ばれる。つまり成果を生み出しやすい行動を言葉で表現したもので、「企業において奨励される行動を列挙したもの」ということもできる。企業のビジョンや戦略を実現するために、どんな人が必要で、どんな行動をとって欲しいのかを、具体的に考え、提示していく。つまり、その会社の欲しい人材像(コンピテンシー)を掲げるためには、「こんな組織をつくりたい」という目標があって、その目標のためには企業の戦略・ビジョンが必要ということになる。

コンピテンシーはできるだけ具体的に設定

ある企業で定めた例を示すと、あるビジョンに基づいて戦略を策定し、これを実現するために掲げた組織像というのが、①組織も個人も絶えず挑戦し続ける集団、②少数精鋭のプロフェッショナル集団、③ワークライフバランスを実現した仲の良い集団、④顧客の要求に素早く対応する集団、⑤グローバルな機能を提供できる集団、の5点を掲げた。

これに対して、コンピテンシーを細かく設定。例えば、①他社が怖がっていることをやってみる、②絶えず改善、改革のポイントを提案する、③現場の状況を踏まえて発想する、④気になったことは早めに発言・行動する、など数十項目にも及んだ。ポイントは表現が具体的で、誰にでも間違いなく分かることだ。

例えば大手企業の採用ページによくあるのが、「コミュニケーション能力が高く、人と信頼関係が築ける人」「チャレンジ精神に富み、主体的に行動できる人」「自分の頭で考え、本質を見極められる問題解決能力のある人」などだが、具体性に欠けるのが難だ。そもそも、どの企業にでも当てはまるような表現で語っていては、コンピテンシーとして掲げる意味もない。

求めるコンピテンシーと実際の評価は一対

そして、このコンピテンシーに基づいて採用を行うのだから、それをどれだけ実践できているのかを評価する場を設けるのは当たり前といえる。具体的には定期的な面談を通じて評価することになるだろうが、コンピテンシーはそれぞれの企業における運用の仕組みとセットで定めなければ、ただの標語になってしまうことになる。そして、求める人材像を明確に規定すると、それ以外の、例えば年齢や性別、学歴などの要素は自然と関係がなくなるため、結果として多様な人物が集まるようになる。「ダイバーシティー」といえば取り立てて何か新しいことに取り組まなければならないようにも感じられるが、それが自然と実現できるのだ。

残念ながら、まだまだほとんどの企業で、意識する、しないに関わらず女性より男性を、低学歴より高学歴の人を求めているのが現状だ。それは、ただ「優秀な人を採用したい」という漠然とした思いから出ている行動で、その結果、誰もが知っている一部の有名大学の学生に採用が殺到するといったことが起こる。しかし、本当にそんな「優秀な人」が必要なのか、そもそも企業が考える「優秀さ」とは何なのかを本気になって考えるだけで、随分採用の窓口は広がるのではないだろうか。それを怠って「人材不足」を嘆くのはちょっとおかしい。

優秀な人でなくても仕事を細分化して対応

「そもそも皆が求めるような優秀な人材がわが社に来るわけがない」という冷めた見方をする経営者もいる。まあ、それを言ってしまえば終わりかとも思わないでもないが、その企業はその企業なりに、「普通の人」でも十分に活躍できるように仕事の内容を細分化したり、ビジネスモデルを簡単にしたりといった工夫をして、この採用難の時代をうまく乗り切っている。実際、採用は年に1回、それもハローワークを通じてしか行っていないために、採用にコストはかからず、しかもそうした比較的単純な仕事を求めて、数名の採用枠がいつも数十倍の競争率になるのだという。

こうして考えると、一般的に「採用難」とされる時代をそのままに受け取って、「わが社には採用は無理」とあきらめるのはまだまだ早いことが分かっていただけるだろうか。他の企業と同様に自社のWebに採用ページを開いたり、業者が開催するイベントに出展するだけでは、応募者から他社と条件面で比較されるだけに終わってしまう。「何故採用するのか」「具体的にどんな人材が欲しいのか」「本当に優秀な人でないとダメなのか」「自社にとっての優秀な人とはどんな人を指すのか」を明確にすることがまず求められている。