増え続ける外国人観光客

政府は「観光立国」を目指し、様々なインバウンド対策を行っている。

2018年の訪日外国人の観光客数は3119万人だったと発表されている。訪日外国時の観光客数は毎年大幅に増えており、2018年は10年前の2009年に比べると実に4.6倍という驚異的な数字となっている。その増えている原因は何か。

伝えられているところをまとめると、大体以下のようになる。まず1つは、世界的な旅行客数の増加だ。UNWTO(国連世界観光機関)が発表したデータによると、2017年の海外旅行者数の伸び率が2010年以降で最大となり、8年連続のプラス成長を記録している。その数は何と13億2300万人にものぼり、前年比7%の増加ということだ。旅行者が増えているのは日本だけではなかったということだ。

日本だけの要因としては、まず政府によるビザの緩和がある。2000年に中国のビザが緩和されたことで、ビジネス以外の訪日旅行が解禁となった。さらに、安倍政権のアベノミクス政策の一環として行われたマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの5か国の訪日観光ビザが緩和されたことが大きいという。

数から質への転換を

また、低価格が売りのLCCの増便も訪日観光客の増加に一役買っている。日本発着の韓国や台湾、東南アジアを結ぶ便の増加によって、アジア圏を中心に外国人の交流が増加している。加えて円安の影響だ。世界各国で円安が進んだことで、お得に日本を旅行できるようになったということだ。

今は2020年に訪日外国人の観光客数を4000万人に、そして2030年までには6000万人を目標にした取り組みが行われている。さらに訪日外国人の旅行消費額についても2020年までに8兆円、2030年までには15兆円を目標にした数値が掲げられている。特に2020年の東京オリンピック・パラリンピックは世界中から日本に注目を集める絶好の機会と見なされており、オリンピック終了後も訪日外国人の数は増え続けると予想されている。

しかし、そうした数を重視した取り組みがいつまでも続くわけがないと思っている。そろそろ「質」を重視した取り組みに変えるべきときではないだろうか。「質」というのも、消費額のことではない。私は訪日外国人の満足度のことを指して言っている。よくイベントなどで来場者数やそこで消費された金額の多寡が、そのイベントの成否を指すものとして取り上げられるが、来場者にとってイベントの主催者が「成功」とするほど、実際に行ったものの人混みばかりが目につき、満足に楽しめない状態に陥っていることが少なくない。

日本は「安売り」の国?

今の日本の観光地も同じような状態に陥っていないだろうか。あるいは、陥ろうとしていないだろうか。世界各地を見渡しても、外国人観光客の増え過ぎによる「オーバーツーリズム」が問題となっている。外国人観光客の集中による特定地域の混雑ぶりや、住民の生活環境の変化も余儀なくされるなど、世界の有名な観光地の中では外国人観光客の排除を訴えるところまで出てきている。そこまでエスカレートしてしまうと、地域住民にとっても外国人観光客にとっても不幸でしかない。そして、その原因はひとえに外国人観光客の受け入れ体制が不十分なことに起因していることが多いと言わざるを得ない。

日本ではこれまで東京や京都、大阪といった地域に訪日外国人の観光客が集中しがちだったのを、地方にまで足を運んでもらおうとする動きが活発化しているが、それも本質的には同じ問題をはらむ。私たちはこれまでのように、訪日外国人の数を意識するあまり、「お得感」を訴え過ぎていたのではないだろうか。つまり、日本を「安売り」するあまり、「日本」というブランド価値を棄損していないかを気にしている。かつて日本は治安も良く、食べ物もおいしく、街中も清潔で美しいとされていた。だから少々物価が高くとも海外の富裕層を引き付けてきた。

しかし、今はどうだろう。例えば、高級ホテルの数、各地の街中の表示などをはじめとする外国人の受け入れ体制の整備は十分に整っているだろうか。海外の富裕層がバカンスを使って日本を訪れるにふさわしい状態にできているだろうか。

地域経済を循環させる工夫を

私には「おもてなしの国」という宣伝文句が独り歩きしているように思えてならない。現状を冷静に観察すると、単なる「安売りの国」というだけではないのか。クルーズで訪日する数千人規模の中国人たちは、日本のホテルに宿泊することもなく、家電などのショッピングを楽しむだけで、周辺観光地に足を運ぶことさえないという。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、2015年以降の訪日客の年収分布も低所得層に移っているとされ、可処分所得が低いために旅行時の消費額も低下している。私たちももう少し、訪日客の消費を促し、その収益により地域経済を循環させていくという産業政策の視点を持たなければならない。

そういった観点から見ると、今、IR(統合型レジャー施設)は海外の富裕層を取り込む原動力になるかもしれない。宿泊とゲーミング(カジノ)だけでなく、エンターテイメントやショッピング、グルメ、コンベンションへの対応など、すべてにおいて高いサービスレベルが求められる。そしてもちろん周辺観光地に足を運ぶ滞在拠点にもなる。地域経済はもとより、日本全体の観光産業に非常に大きなインパクトを及ぼすだろう。だから、そのためにも日本はこれまでの数ありきの訪日外国人観光客対策から、質を重視した対策への転換が求められるのだ。それは日本というブランド価値が残っている今こそが、最後のチャンスなのかも知れない。