手を広げる誘惑

これはどうも私自身の反省でもあるのだが、売り上げがしんどくなってくると、リスクヘッジのためにあれこれ構わず仕事に手を出そうとする傾向がある。これまでもそうだったが、今はどうかと問われれば、今もその誘惑に勝てるかどうか心もとないところがある。

だが、私の周りを見ても、同じような悩みを抱いている経営者は多い。ひょっとしたら、それを当たり前のように考えて悩んではいないかもしれないが。しかし、どんな新しいことを始めてみても、今日、まったく革新的な商品やサービスがそうそう見つかるものでもない。結局、どんな事業に進出してみても、そこはそこで競争は激しく、なかなか新規事業として軌道に乗せるのは難しい。挙句の果ては、そんな周囲のことに気を取られている間に、ますます既存事業がうまくいかずに弱体化してしまうといった悪循環に陥ってしまうものだ。

いろいろな事業を試してみるのも試行錯誤の内かもしれない。しかし、それが既存事業と関連する内に留まっている間はまだ分かるとして、まったく畑違いの分野に進出していこうとするのはどうだろう。さすがに、それはただでさえ経営資源が限られている創業間もない頃であったり、小規模程度の事業でいる間は、むしろ経営資源が分散されることのデメリットが勝ちすぎるのではないだろうか。

顧客に能動的は働きかけができているか

何故こうなってしまうのだろう。それは経営者の売り上げを優先させる考え方にそもそもの間違いがあるように思える。私の反省でもあるが、毎日忙しく働いているのに思うように売り上げが伸びず、利益も残らないギリギリの状態で苦しい経営が続いている企業は多い。だから売り上げを追い求めるのだが、自社の商品やサービスを売り込むことばかりにとらわれるようになると、本来の顧客が求めているものにまで目が回らなくなる。自分のことで精一杯なのだ。そうなると、顧客の言いなりになっていまい、あれもしなきゃいけない、これも取りそろえなければいけないとなってしまい勝ちだ。

一度そうなってしまうと、自社の商品やサービスに、もともとあった方針に基づく「基準」と呼ぶべきものがあいまいになり、無くなってしまう。そうなると、顧客対応もその場その場で異なり、「ムリ」「ムラ」「ムダ」が発生することになる。しかし、こうした過程においても、なかなかそれが問題だとは認識しづらかったりする。「顧客の要望に応じることが最大のサービス」と考えるからだ。しかし、それはこちらが顧客に能動的に働きかけているわけではなく、ただ顧客に「振り回されている」だけなのではないか。その結果生じた「ムリ」「ムラ」「ムダ」が様々な問題を引き起こす。

「ムリ」「ムラ」「ムダ」から起きる様々な問題

まず「ムリ」をすることは、同じ商品やサービスを提供し続けることを困難にする。従業員がいる場合は、彼らのモチベーションを継続することも難しい。従業員たちに余裕が無くなれば、単純ミスを引き起こす原因になったり、チームワークを乱すことにもつながる。

その「ムリ」が「ムラ」を呼ぶ。商品やサービスに「ムラ」が生まれると、優良顧客が離れていってしまうことになる。例えば、シフト制で働いている従業員が、人手不足で他の従業員のカバーをせざるを得ない日が続くと、それでも顧客に対する集中力は続くと誰が言いきれるだろう。パン屋の場合、毎日、朝一番に買いに訪れる顧客に、とても美味しい食パンを提供する日がある一方で、そうでない日もあればどうだろう。

そして「ムダ」は収益性を悪化させる最大の原因になる。製造業でも飲食業でも、商品やメニューのラインアップをそろえればそろえるほど、商品ロスや食材ロスが出やすくなる。そもそもラインアップをそろえるためにも時間や人手がかかる。たとえそれで売り上げが多少上がっても、それを上回る経費が垂れ流されるようになると、収益性が悪くなってしまうだけだ。

「ビジョン」「ミッション」に立ち返る

昔から言われていることだが、やはりビジネスは単純なほど経営もしやすくなる。売り上げ優先で複雑化する経営はやはり避けなければならない。しかも、一度対象を広げてしまうと、それを絞り込むことは一層難しくなるものだ。その結果、対象はますます広がることになってしまい、最後は収拾がつかなくなってしまう。

ここは経営の原則に立ち返り、「ビジョン」や「ミッション」を見つめ直すしかない。一つの業態を追求し、顧客を絞り込むことで顧客の真のニーズも明確に見えてくる。その結果、付加価値を上げるためにしなければならないことも見えるようになるものだ。B to Bの仕事でも、生き残りのために精一杯で自社の利益のことしか考えられない顧客は「安く」「早く」を優先しがちだが、好調な顧客は彼らの顧客優先の目線で「サービス」を求めてくる。

これからの時代のリスクヘッジは、リスクを分散させることではなく、顧客の信頼を勝ち取り続けるためにサービスを極め続けることに他ならないことを肝に銘じるべきだ。そして、そのために市場の絞り込みが重要なことを改めて思う今日この頃だ。