夏休みは子供に訴えるチャンス

製品やサービスだけでなく「学びの場」も提供するー行楽地だけでなく、そんな企業の博物館やイベントがこの夏、人気を博している。特に子供が参加しやすい夏休み期間中は、楽しく遊べる工夫を凝らした企画が目白押しだ。次代を担う子供たちと普段、触れ合う機会が少ない企業にとって、こうした企画は自社を知ってもらう良い機会にもなっているようだ。

東京都文京区にある宇宙ミュージアム「TeNQ(テンキュー)」では、宇宙ベンチャーのispace(アイスペース)が2021年半ばにも月面に着陸させる予定の無人の着陸船の実物大の模型を展示した。着陸船の大きさは幅、奥行き、高さともに約3メートルもある。着陸船の下には月面の画像を投影し雰囲気を盛り上げている。備え付けの3Dカメラで見れば、凹凸のある月面に着陸した着陸船をイメージできる作りになっている。

月面探査を身近に感じてもらうことが今回の展示の大きな目的という。米国の月面着陸計画「アポロ計画」で宇宙飛行士が月に着陸してから7月で50年が経過した。米国は今、再び月を目指している。アイスペースも20年半ばに着陸船を月の周回軌道から月面に着陸させ、その後に探査車で月面を探査する計画を立てている。

あの手この手で関心を呼ぶ

AGCは科学の魅力を伝える人気漫画とコラボレーションを組んだ。東京にある体験型ショールーム「AGCスタジオ」で、集英社の週刊誌「少年ジャンプ」で連載中のマンガ「Dr.STONE」と組んだ企画展「実験する漫画展」を開催した。漫画の世界に浸りながら、同社の事業のガラスや科学を身近に感じてもらうのが狙いだ。

マンガの世界観をAGCのガラスなどを用いて表現し、主人公の石神千空の実験場「千空のラボ」や登場キャラクターが被る「スイカの仮面」などを忠実に再現した。ファン垂涎の的となる50点の複製原画も展示した。このほか、スタジオの入り口には大迫力のステンドグラスを配置した。ガラスの素材感が来館者の目を引く。触って遊べるガラスを使ったユニークな展示物も多数用意されていた。

NTTドコモは、小学1年~4年生を対象に、ドコモショップの仕事が体験できる「ドコモお仕事チャレンジ」を実施した。昨年は関東甲信越地方の店舗だけでの開催だったのが、今年は全国の店舗に広げた。
子供たちは女性店員から基本の挨拶とお辞儀の仕方を学んだ後、インカムで指示を受けながら、展示コーナーのスマートフォンを布で拭いたり、顧客に飲み物を届けたりした。そして、仕事を体験した後は、仮想現実(VR)ゴーグルと、拡張現実(AR)のうちわを製作した。
ペンギンやお菓子の絵がスマートフォン越しに出て見えると、子供たちはひと際大きな歓声を上げていた。NTTドコモでは「ドコモショップの店員が来店客に接する気持ちを理解してもらうことで、ドコモのファンになってもらえればうれしい」と企画の狙いを話す。

次代のファンを作る

今年開館30周年を迎えた愛知県長久手市にあるトヨタ博物館では、「サマーフェスタ2019」を開催。「トヨタ2000GT」を始めとする国内外のスポーツカーを展示したほか、パトカーや消防車などの「働くクルマ」の屋外展示・実演などを企画し、大人から子供まで楽しめる内容にした。

特に子供向けには「キッズラボ」も開催。粘土で作る自動車のデザインモデル「クレイモデル」の造形や燃料電池の仕組みを学ぶコースなど6つの教室を用意した。これらイベントを通して、車に関心を持ってもらい、車ファンの裾野を広げるのが狙いだ。

東京都小平市で東京ガスが運営する博物館「ガスミュージアム」」でも、子供向けの体験イベント「ガスってなんだろう?」を開催した。学芸員が和ろうそく、ガス灯、電灯と灯りを担ってきた道具に点灯し説明を聞いた後で、小学生以上の来場者は自分でガス灯に点灯できる。ガスの歴史や仕組みが分かる仕掛けを用意して子供たちを出迎えた。

中小企業でも子供に開放

大手企業だけではない。中小企業も子供に向けた取り組みを行っている例はある。大阪市内にある板金工場では、夏休みの間、地域の子供に工場の見学会を行っている。その目的も言ってしまえば先に挙げた大手企業同様、「自社を知ってもらいたい」「ものづくりの楽しさを知ってもらいたい」ことにあるが、そのほかにも隠れた(?)狙いがある。

工場内を子供たちが好奇の目で見て回り、疑問をそこで働く工員たちに直接投げかけることで、工員たちが俄然やる気を起こすのだ。普段どちらかといえば地味な作業に終始する工員たちにとって、相手が子供だろうが、自分たちの仕事を紹介することが面白くなかろうはずがない。最初は子供が工場に入ることに危険を感じていたものの、次第に工員自ら工場内の整理整頓を行い始め、今では見学路が整然と整備されている。

また、子供たちへの開放を通じて、その親たちも訪れるようになり、そうした親世代にも何をしている工場で、安全で清潔な工場がきちんとアピールできれば、住宅が周囲に押し寄せる地域にあっても肩身の狭い思いをしなくて済むというわけだ。子供のパワー侮るべからず。