4つの危機感

2018年版のものづくり白書を見てみると、「製造業の共通命題は経営力強化」という強いメッセージが込められている。人手不足、第4次産業革命、そして品質保証体制の確立など、迫りくる課題に対応するためにはトップ主導の素早く大胆な変革が必要だというのだ。これまで伝統的に現場力が強みとされてきた日本だが、新たな課題が次々と現れる中で、経営者層の意識変革が急務となっている。

2018年版の白書は経営主導による変革の必要性が強く訴えらえたものになっている。製造業を巡るさまざまな課題が待ったなしとなり、迅速な対応が求めれられているからだ。白書では総論を初めて設け、製造業に関する「4つの危機感」を記している。

この4つの危機感とは、①人材の量的不足に加え、質的な抜本変化に対応できていない恐れ、②従来「強み」と考えてきたものが、成長や変革の足かせになる恐れ、③経済社会のデジタル化など、大きな変革期への本質的なインパクトを経営者が認識できていない恐れ、④非連続的な変革が必要であることを経営者が認識できていない恐れーだ。

製造業は今、業績が好調なだけに、こうした問題が業績の陰にあるのが表立って見えない状況にある。しかし、今すぐにでも手を打たないと将来の競争力に悪影響が及び、気づいた時には手遅れとなる可能性が高い。

海外企業との競争

人手不足の問題については、経済産業省が2017年12月に実施したアンケートでは、何と回答企業の90%以上が「人手不足を認識している」と回答をしている。2016年12月の調査から人手不足の認識が10ポイント以上の伸びを見せており、深刻さが増していることを示している。

IoT(モノのインターネット)といった第4次産業革命の流れに対応するため、デジタル化の推進も大きな課題だ。海外では「インダストリー4.0」を掲げるドイツを中心に、デジタル技術を用いたビジネス革新が進展している。

白書では特に今回、海外事例が大幅に拡充されているのが特徴だ。ドイツ、イスラエル、スイスなどの計21事例を掲載しており、IoT時代の新たなビジネスが世界中で生まれていることが見て取れる。

例えば、空圧機器を手掛けるドイツのマーダは機器から集まるデータを基に、エア漏れ検知や分析などの有償サービスを提供し、顧客のコスト削減などに貢献する。ハードウエアではなく顧客の課題の解決に焦点を当て、新たな収益源を確立している。

ドイツ政府は工場によるエネルギー利用の削減を目指しており、多くの現地企業にとって空圧機器周りのエア漏れ改善が喫緊の課題となっていた。これに着目し、同社は機器からデータを収集できるスマートフォン用のアプリケーションを開発した。エア漏れを効率的に自己点検できるシステムとして無料配信を始めている。

このように無料アプリで顧客とデータを獲得し、さらに便利な有償サービスの利用者増につなげる戦略は、IoT時代ならではのビジネスモデルと言える。

状況を正しく認識できているか

モノづくりの在り方がグローバル化の進展によって急速に変わりつつある中、中小企業を含む国内製造業全体がこうした環境の変化に向き合う必要がある。しかし、白書ではこうした諸課題について、国内の経営者層が正しく認識できていない恐れを指摘する。「抜本的な変化の本質に気付いていない、あるいは気付かずに目を背けてしまう」としたうえで、「このままでは将来の致命傷となりかねない」と警鐘を鳴らしている。

経済産業省の多田明弘製造産業局長も、「有事はトップの大胆な判断が必要だ。そして製造業は、今まさに有事に直面している。多くの経営者が深刻さを理解していると思うが、もしそうでない人がいたら、今回の白書を読んで欲しい。危機を認識する経営者もその大部分が悩んでいる。そのような経営トップの行動を促すような政策を展開してきたい」と話している。そして、特に期待することとして、「新しい現場力を身に付けて欲しい。日本が誇る従来の現場力は、課題が設けられていればすごい成果を生む反面、課題の設定は苦手だ。課題設定力を高めるには、人材育成が重要になる」としている。

ボトムアップの限界

日本の製造業はこれまで、現場主導のボトムアップ型で発展してきた。しかし、環境の変化はかつてないほどに速く、ボトムアップだけではスピード面などで限界に直面している。

さらに、神戸製鋼所の不正問題に代表される品質保証についても、現場至上主義の弊害が露呈した格好となっている。現場でのデータ改ざんに対し、トップによるチェックが機能しなかったのだ。経済産業省は製造データを利用したトレーサビリティー(生産履歴)管理システムなど、うそのつけない仕組みをトップ主導で構築することを企業に求めている。

足元で製造業の業況は悪くない。ただそれに目を奪われるのでなく、人手不足や品質保証の強化を始め、迫りくる課題は避けようがない。スピード感を伴った取り組みが急務と言える。「今こそ経営主導で対応を」-これが2018年版ものづくり白書の提言だ。