まず振り向かせること

顧客がモノやサービスを購入する際、当然のことながら購入前はその良さを経験して味わってはいないので、「役に立ちそう」、「面白そう」、「美味しそう」と思って購入するわけだ。例えば、本にしても、最後まで読んで購入するのでなく、タイトルや目次、書評などを見て、「面白そう」と思って購入するのだ。もちろん、実際に役に立ったり、美味しくなければリピート購買にはつながらないが、とにかく最初のとっかかりは、お金を払うだけのものがありそうだと「思わせる」、「感じさせる」ことが大切だ。だから、商品のネーミングやデザインに凝ったり、様々な広告宣伝を行う。当たり前のことなのだが、そのお客様の心と実際の営業の流れが合っていないことが多いように感じる。

よく企業の方との話の中で、「(自分たちの製品の良さは)使ってもらえば分かるんだけどなあ」といった半分投げやりなことを言われる方がおられるが、それは反面から言えば「使ってもらわなければ分からない」ということでもある。顧客との間にすでに信頼関係が築かれているのならともかく、まさか顧客に向かって「だまって(言われた通り)まず使ってみなさい」などとそんな高飛車な物言いが通用するはずもない。だから、「使ってもらえれば分かる」と言ってそこで思考を停止するのでなく、いかに顧客に「使ってみようかな」と思わせるかが大切になるのだ。

ツールは狙いに応じているか

マーケティングの世界では、一般に消費行動の順序を表すものとして「AIDMA(アイドマ)の法則」が良く知られている。これはAttention(注意)→Interest(興味・関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の流れのそれぞれの頭文字をとって表したもので、消費者がモノやサービスの購買時の心理的なプロセスを指す。何やらややこしいなあと感じる向きには、この5つの過程は大きく3つの段階、つまり「認知段階(注意)」、「感情段階(興味・関心、欲求、記憶)」、「行動段階(行動)」に分かれると覚えると覚えやすい。近年ではその変形として「AIDCA(アイドカ)」モデルや「AIDAS(アイダス)」モデルなども提唱されている。

その3つの段階に対応して考えると、「認知段階」、「感情段階」、「行動段階」のそれぞれに対応した営業活動ができているかということが大切になってくる。
まず「認知段階」では自社及び商品やサービスの存在や特徴を知ってもらうことが狙いとなる。そこでは各種広告、店頭のPOP、ポスター、WEBサイトなどがツールとして挙げられる。

次の「感情段階」では、見込客の獲得とその後の商談へ、そして信頼感と購入意欲を向上させクロージングへの橋渡しが狙いだ。そのために飛び込み営業、テレアポ、店頭の接客、イベントへの出展、会社案内、提案書や事例集の提供などが考えられるだろう。

最後の「行動段階」ではクロージングからフォローを行う。つまり、購入への決断を促し、顧客を再購買に導きロイヤルカスタマ―化することが狙いだ。ここでは営業、店頭の接客、WEBサイト、会員向けPR誌、メルマガなどが有効になる。

そのそれぞれのツールがそれぞれの狙いに応じたものになっているかが大切なのだ。

逆算の考え

それを考える際、最も重要で大切なことは、これら一連の流れをクロージングから逆算して考えるということだ。例えば、クロージングの目標を「成約率10%、10社から契約を取ること」とすると、そこから必要な商談に進む件数は100社必要になる。そして見込み客から商談に進む確率を10%とすると、必要な見込み客は1000社になる。WEBサイトを使ってその見込み客を獲得する場合、コンバージョン率が1%とすれば、各種広告で10万社をWEBサイトへ誘導しなければならないことになる。一方、クロージングした顧客からのリピーター率を何%に設定するのか。そうした対策をそれぞれの段階で取らなければならない。

仮に売り上げを倍増したい時にも、クロージングから逆に対策を考える。各段階で次の段階へ向かう率が低い場合、例えばクロージングの成約率が低い時にはそれを改善する手立てが求められるが、ある程度より上の場合はむしろ率を高めるより、その他に改善する部分がないかを考える方が効率的かもしれない。このことをクロージングから考えずに、最初の段階から流れを追うように順に対策を練っていっても、期待した成果に届かないことが多くなったりするから要注意だ。

業者任せはダメ

そうして販促の目的を明確にしたうえで、各媒体の作り込みには業者にこちらの狙いや条件提示を明確にしなければならない。決して業者に任せて済む話ではない。業者にもいろいろなタイプがあって、それぞれに得意とするところは異なる。業者に任せるということは、こちらの狙いに関係なく、それぞれの業者の得意とするところに振り回されることになる。

例えばWEB制作にしても、格好の良いデザインや格安な費用を提示する業者に目が向きがちになるが、何のためのWEBか、そこで何件の見込み客を獲得する必要があるのかに対応していなければ、単なる自己満足に終わる。実際にそうなっている例も多いのではないか。

「作るが3で、売るが7」とは、昔からビジネスを成功させるのによく言われる法則だ。
良い商品やサービスを作ることはビジネスを成功させるために当然必要だが、それだけではまだまだ成功の半分にも達していないということを肝に銘じておくべきだ。商品やサービスの魅力を顧客にきっちり伝えること。この当たり前のことをすることがいかに面倒であっても、きっちりと正面に向き合って取り組んでいかねばならない。