多様化するステークホルダー

ひとたび会社を立ち上げると、さまざまな関わりを持つステークホルダー(利害関係者)に取り巻かれる。会社の大小は関係ない。以前から会社にとって顧客、従業員、投資家が三大ステークホルダーと言われてはきたが、最近ではコミュニケーションが必要なステークホルダーは一層多様化している。

今、思いつくままに挙げても、
・株主や投資家
・従業員とその家族、(古い企業の場合)OB社員
・顧客と潜在顧客
・地域社会
・グループ会社、合併会社、買収会社
・消費者団体やNPO、NGOなど
・監督官庁、金融機関、行政、大学
・マスメディア
・取引先や流通
・海外
などがある。
そして、これら多様なステークホルダーとのそれぞれのコミュニケーションを統合したものが企業広報と呼ばれる。今、その「広報」がとても大切な時代になっている。

広報とはPRのことを指すが、一般にPRと言うと広告と間違われやすい。PRはPublic Relationsの略称で、文字通り「社会との良い関係づくり」を意味する。「広告」でありがちな、企業の製品やサービスを一方的に顧客に売り込むことばかりではないのだ。念のために補足すると、広告業界の人たちは「広報」という言葉をあまり使いたがらない。大抵は広報を「PR」と呼んだり、最近は「戦略PR」という言葉まで出てきた。本当はPR自体に戦略性が伴うもののはずだが、これなどは日本で本当の意味でのPR活動の戦略が練られてこなかったために、あえて創られた言葉のようだ。

広告はもう効かない?

それはともかく、「広告は以前ほど効果がない」という話はよく聞かれると思う。それが言われ出したのは2000年の始めごろからか。インターネットの普及に伴い、あまりに大量の情報が流通し出すと、消費者が広告に対して拒絶反応を示すようになったのだ。要するに消費者が処理しきれないほどの情報が、毎日毎日目に飛び込んできたり、耳に入ってきたりするため、特に自分の興味の中にあるもの以外は、それらを雑音と同じようにしか見なくなってきた。例えば、駅頭でチラシなどを配っていても、大半の人がそれを受け取らずただ通り過ぎるだけといった風景はお馴染みだ。

その後のSNSの普及で、今では広告単独での成果は見込めず、広告と広報の融合や、広告と広報とマーケティングプロモーションを戦略的に融合させるマーケティングが主流になってきている。まだまだ大企業であってもその一部や、中小企業においてはなおさら広報が十分に機能していないところも多いが、今では企業の大小を問わず広報は経営を支えるものとして大切なものとの認識だけは広がっている。

羅針盤にもなる広報

実際に広報の機能としてどういうものがあるか。ここではそのいくつかを挙げてみよう。
まず「会社の透明性を高める」ことがある。これは広報の基本中の基本とも言える機能で、企業の情報開示や説明責任を徹底することで、社会からの信頼を獲得する。これまでは情報開示は会社の都合でやり、説明責任は要求された時に渋々やるものだったが、今では企業にとって都合の悪いことも隠せない時代になってきた。

次に「会社の羅針盤になる」こと。企業が社会からどう見られているのか、市場の中でどういう立ち位置にあるのかの見極めを行う。言わば、「社会と会社の認識のギャップ」を把握するということ。「会社の常識が社会の非常識」にならないように社内に警告するのはもちろん、「どういう会社でありたいのか」「どういう会社に見られたいのか」をしっかり社内で共有しておく必要がある。

また、「マスメディアとのラインを維持する」こと。「小さな会社だからマスメディアは関係ない」という認識も古い。今やその影響力は「衰えたり」と言われるマスメディアでも、それを通じて企業活動を積極的に社会に発信することは依然として重要だ。そのためにマスメディアと広く、バランスの取れた人脈を作っておく必要がある。いざという時にこれが役立つのだ。

企業ブランドの価値を高める

「危機管理の司令塔になること」も大切だ。日頃から情報開示と情報の収集に積極的であれば会社のリスクは減少するが、社会の期待以上の情報開示や説明責任を果たしていると、世間の信頼は高まる。これがいざという時、「まさかあの会社が」と思われるか、「やっぱりあの会社が」と思われるかの差となる。この差は大きい。

そして、多分一番関心があると思われるのが「会社の知名度を上げ、企業ブランドの価値を高めること」だ。今更言うまでもないことだが、あらゆる分野でグローバルな競争が始まっている。個々の商品やサービスの差も分かりにくくなっている。そんな中で企業ブランドの差は決定的となる。例えば、「どんな会社でありたいのか」を発信するだけでも、もちろんその裏付けがなければ逆効果だが、効果は上がる。そのために広報を司る部署(担当者、もしくは社長自身)は会社の現在の路線が将来像と異なっていないか、チェックしていかねばならない。

もちろん、どんな会社であっても社内で社長が十分なリーダーシップをとり、会社の将来像を社外に発信すると同時に社内にも徹底していかねばならない。「小さな会社だからそこまでしなくても」と思うのは見当違い。小さくても人が何人か集まれば、社長の想いとは異なる行動も起き勝ちになる。社長はビジョンを持ってそれを社内外に普及させていく“伝道師”と心得るべきだ。