日本は安売りの国?

海外で暮らしていて久しぶりで日本に帰ってきた知り合いの者と話しをする機会が最近、続けてあったのだが、彼らが一様に驚いたことの一つは日本の物価の安さだった。アメリカのニューヨーク勤務から戻った者は、日本で大概のビジネスマンが1000円以内で昼食を食べていることに驚いたというし、東南アジアから戻った者も日本のハンバーガーが300円程度で買えることに感心していた。日本に居続けている私にとってはその話を聞いて、暮らしやすいのは良いことなのだが、日本が20年とも言われる「失われた時代」を経て、いつの間にか諸外国に比べて国全体が「安売り」になってしまったことを嘆かわしく思わずにはいられなかった。

営業の基本を忘れた?

それはともかく、私も10年ほど前まではアジアを中心に、年に何度か海外に足を運んで仕事をしていたことがあった。その時にいつも感じていたのは、アジアの人たちの稼ごうとするパワーの強さだった。駅から降りると、20~30人ほどのオートリキシャー(原付バイクに台車が付いた簡易タクシー)の人たちが、一斉に周りを囲んで金額の交渉が始まったり、露店が朝早くから夜遅くまで出ていて、精一杯稼ごうとしている姿に心打たれるものがあった。それと比べて日本の営業やマーケティングの現場を見ると、稼ぐ気が本当にあるのかと疑わずにいられないことが多すぎるように改めて思った。

営業はつまり「人のお役に立つ」ということがその本質になければならない。それなのに、相手のことを知ろうともせずに、ひたすら勘と経験と度胸(3つ合わせて「KKD」と呼ぶそうだが)だけを頼りに営業を行っているようにしか見えないことが多い。これでは社内でも成果を上げるためのノウハウが蓄積されず、「売り上げ(稼ぎ)向上をあきらめている」と見られても仕方ない。何を売るにしても、まず「目の前の人をどんな風に喜ばせて、感動してもらい、その結果としてどの程度売り上げを上げようか」という視点で営業や経営をしなければならないはずが、そんな基本的なことさえ忘れてしまっているとしか思えない。

何故あなたから買わなくてはいけいの?

まずは「買ってください」と率直に言うことだ。アジアのオートリキシャーの人たちのように正面から堂々と。そうしたらおそらく、「何故あなたからその商品(サービス)を買わなくてはいけないの?」という趣旨の返事が返ってくるだろう。または頭の中でそのことを考えるだろう。その答えを準備さえしておけば、買わない理由もなくなるはずだ。

ここまでは大半の人にもおそらく異論はないないだろう。ところが、実際にそれが実行できているかとなると、とたんに怪しくなる。「何故あなたからその商品(サービス)を買わなくてはいけないの?」という疑問にきちんと返答できていないのが現実なのだ。基本的にはその答えはまず自分の強みを、コミュニケーションを通じて相手にきちんと伝えることにある。この強みがどこにあるのかを聞いても、なかなか答えが返ってこないことが多い。多くの現場で売り上げの上がらない原因がここにある。最も大切なはずの自分のしていることの良さを相手に伝えきれていないのだ。

心理学では「返報性の原理」というのがあって、もらったものはお返しをしたくなるというのがある。つまり、相手に価値を徹底的に与えることで、相手はそれに対価を払うことを躊躇しなくなるのだ。必ずしも対面でなくても、まずはメールを送ったり、DMを出したりして手段は何でも良いのだが(とはいっても、商品やサービス、そしてタイミングなどによって適切な手段は変わってくるが)、送る情報を工夫して「価値ある提案」を出し続けよう。

顧客は提案を待っている

「価値ある提案」ができるようになれば、次に必要なのは自分が知っていることと、相手が知っていることの互いの情報を共有化していくことだ。まず先に、自分が知っているけど相手が知らないことを伝える。そして、相手からフィードバックが返ってきて、自分が知らないことを相手から教えてもらうのだ。売り上げを上げ続けるヒントはここにある。要は自分の知っていることと、相手が知っていることを増やすということ。

さらに、得られた情報はストーリーに組み立てることだ。情報を情報として見る限りは人の心を動かさないが、それがストーリーになると人を感動させることができ、行動、つまり購買につなぐことができるようになる。ストーリーを組み立てるというと何か特別なことのように思われるかもしれないが、「過去から現在、そして未来」へと自分と相手との互いの関係を発展的に描くのだ。

ストーリーは具体的には、まず動機付けから共感を得て、こちらの提案に対してそれを受け入れる理由を作り、同時に緊急性を説くことで売り上げにつなぐまでを組み立てる。どんな相手でも必ず問題や課題を抱えているものだが、それに気付かないでいることも多い。それでもなんとなく潜在意識には不安があるもので、それを解決してくれる商品やサービスを探している。それを誰かが気付かせてくれ、提案してくれることを待っているのだ。それを信じて積極的に営業をしていこう。