後悔先に立たず

起業すれば多くの人にとって、途端にそれまで見慣れない契約書に次々に出くわすことになる。この契約書がなくても、つまり口約束でも契約は成立するとされているが、口約束だと後日になって当事者間で約束の内容について意見が対立し、紛争が生じる可能性さえある。また、口約束だと「言った」「言わない」の水掛け論となり、冷静に話せば解決する問題でも紛争が拡大して収拾がつかなくなる恐れもある。

だからこそ契約書が必要になるのだが、あまりに多くの人が「何となく皆が契約書を作成しているし」「自分も作成した方がいいと思ったから」「これまでずっと前からこの書式で契約してきたから」「契約の相手方が契約書を用意してきたから」などという安易な理由で、ろくに契約書をチェックもせずに調印している。その結果、契約書があるにも関わらず、後日になって契約書の条文の解釈を巡って、当事者間で意見が対立して紛争に発展し、裁判沙汰になるケースが後を絶たないのだといわれる。
契約書のチェックはどうあるべきなのか、その基本について調べたものを以下にまとめてみた。

専門用語にだまされるな!

まず契約書をチェックする時には3つの段階を踏むと良い。まず第1が条文を理解すること。第2がその契約書が自分にとって有利なものなのか、不利なものになるのか。そして第3に考えなければならないのは将来の紛争の予防策・解決策の検討だ。

まず第1の条文を理解するところだが、弁護士が注意を喚起するのは、契約書の条文を日常的な日本語の文章として読んではならないということ。日常的な文章のつもりで読むと、多義的な用語や複数の解釈が成り立つ文章を、つい自分に都合よく読んでしまい、後日の紛争の原因を見落とす可能性が高くなる。「契約書を読む時は、外国語を解読するつもりで読むべき」と忠告している。

そうして条文を理解する時、何よりこれから行おうとしている取引内容とズレていないかをチェックしなければならない。特に慣れない法律用語に出くわした時は、たとえ面倒でもそれがどういう意味なのかを一字一句調べなければならない。これは契約書に限らないが、一般に専門用語を使う時、そこに専門用語を使った側に都合の良い条件などを含ませることが往々にしてあるからだ。

契約に遠慮は禁物

そして第2に契約書の内容が自分にとって有利なのか、不利なのかを見極めることが必要になる。なぜなら、契約書と聞けば、多くの人が中立、公平なものと思っているようだが、「契約自由の原則」というのがあって、実は契約書の内容は絶対に中立、公平でなければならないというわけではない。相手側が作成した契約書は、相手側に有利に作成してあることがあっても当たり前なのだ。これに気付かずに契約書に調印すると、後日になって自分に不利ということが分かっても、もう後の祭りだ。

契約書のほとんどはこの第1と第2に気を付けていれば大丈夫なのだが、場合によっては、将来の紛争の発生が予想されることもある。その場合、第3として予想される将来の紛争についての予防策や解決策を契約書に盛り込んでおくことが万全となる。

重要な条文は限られている

とはいっても契約書には多くの条文が並んでいるもので、慣れない人にとってこれらの条文をはじめから1つずつ読んでいくのは難行苦行でしかない。しかし多くの条文が並んでいても、それぞれの条文が皆同じ重要度で書かれているわけではない。「この条文がなければ成り立たない」「この条文が契約の柱だ」となる条文は意外に少ない。この重要度をまずしっかり意識しなければならない。

条文を読む時、いきなり第1条から読み始めるのでなく(読み合わせをする場合、そうなることが多いが)、まず全体像を把握した方がいい。つまり、何の契約なのか、全部で何条あるのか、どういう順番で条文が並んでいるのかだ。そして重要な条文がどこにありそうなのか、予想して読み進めることだ。

紛争が生じるのは契約を解消する時

契約書の中の重要な条文は大体だが、以下の4つに絞られる。
①合意の種類(取引内容)を定める条文
②対価の支払いに関する条文
③契約期間に関する条文
④契約終了に関する条文

①では売買契約なら物を売る、買うという合意内容が条文に書かれていなければならず、
業務委託契約なら、どのような業務を委託するのか、されるのかという合意内容が書かれていなければ契約にならない。
②も当たり前と思われるかもしれないが、契約の中には無償契約(対価を伴わない契約)、
片務契約(当事者の一方だけが債務を負う契約)もある。条文をチェックする時は、「そんな事当たり前だろう」と思わずに、それが有償(対価を伴う)双務(両当事者が債務を負う)契約で、対価の支払いについて記載されているかどうかに注意しなければならない。
③は1回の取引で契約内容が終了する場合には問題にならないが、契約関係がある程度の
期間継続することを前提とする場合、契約期間が重要になる。もし契約期間を定めない場合、何か他の契約終了事由がない限り、契約は終了しないことになる。
④も大切だ。現実に紛争が生じるのは、契約を維持発展させる時ではなく、契約を解消す
る時だとされる。「どのような事由があれば契約を解除できるのか」「契約期間の途中で契約を解約することができるのか」について、チェックをしておかねばならない。