質問した時本気で答えてもらうために必要なもの

商品やサービスを売るためには、まず顧客の求めるもの、つまり困っていることを聞く力が欲しいということを言ってきたのだが、問題はなかなかそんな都合の良い情報を顧客が教えてくれるわけではないということだ。自分が困っている問題を解決してくれそうだという期待より、何か勝手に売り手に都合の良いものを買わされるのではないかという疑心暗鬼の方が上回っていることが多くある。そんな時は、顧客に「この人(会社)にはこちらの情報を出すだけの価値がある」ことを感じてもらわなければならない。それができていないので、いつまで経っても話が本筋に入っていかないということが起こる。

私は大学を卒業してすぐに就いた仕事が営業ではなかったが、外回りをして顧客からの話を聞き出すという点では営業と同じような仕事を経験してきた。私が仕事についたばかりの頃、先輩からよく言われたのは、「顧客に質問をして話を聞き出すということは、顧客から“借り”を作るということ。顧客にとっては、その“貸し”に見合うか、それ以上の見返りがなければ、なかなか長く顧客から情報を提供しようとは思わなくなるものだ」ということだった。顧客も暇で私の話に付き合っているわけではない。何か得るものがなければ、ただの時間の無駄なだけだ。私は「なるほど」と得心したものだった。

価値訴求力を高める

今ならパソコンもあるし、自分である程度の販促ツールを用意することはできるのではないだろうか。自分(あるいは当社)がどんな販売実績を持っているのか」や「どんな役に立てるのか」、「どのような問題に対しては細かなリスクまで知り尽くしているので安心してお任せください」と、顧客に期待や信頼を持ってもらえるだけの材料を提示しなければならない。いわゆる「価値訴求力」というものだ。この価値訴求力を持つために、日頃から商品やサービスの販売戦略を練るのはもちろんのこと、それを追求する上で足りないものがあると感じるなら、商品やサービスの在り方にまで遡って見直しをし続けなければならない。

社員が自分一人であったり、他にいてもまだまだ少ないうちは、このことを容易につなげて考えられるので、小回りも効いて効果も出やすい。しかし、ある程度会社の人数が増えて組織が大きくなってくると、「価値訴求力」がしっかりしていないと、たちまち成長の壁に頭を打つことになる。「価値訴求力」こそは社員一人一人の自信の源になるもの。もちろんそれが独りよがりであっては滑稽なだけだが、それは顧客から見ても、自分が単なる“業者”で終わるのか、顧客の仕事を進める上での大切な“パートナー”として見なしてもらえるのかの違いにつながるものだ。

立場変われば視点も変わる

この「価値訴求力」がしっかりしていて、初めて顧客は悩みを打ち明けようと思ってもらえるようになる。こちらの質問にもしっかり答えてもらえることになる。しかし、顧客は悩みを抱えていても、必ずしもそれに対する課題を明確に整理しているわけではない。だから商品やサービスを提案する前に、まずその顧客の課題をしっかり整理して見せてあげることが必要だ。何ならその課題整理の段階で顧客と協力していくこともできる。そこで更なる価値を感じてもらえれば、たとえ同業他社がいてもこちらを頼ってもらえるようになる。ところが実際には「営業担当者にまた会いたいと思わない」と感じることが多いのは、それができていないことの現れなのかもしれない。

これも私の拙い経験で恐縮だが、成績がなかなか上がらない営業マンなどは、せっかく価値の訴求がうまくできていて、顧客もそれに関心を持ってもらえていると感じることができても、それで例えば顧客の上司が同席するようになっても、同じセールストークしかできないことが多いように思った。例えば、それまでの社員に加え、顧客の部長なり役員なりが出てくる時は、その部長や役員の立場から見ている視点は違ってくることを知るべきだろう。社員のレベルであればその会社の商品の売れ行きだけを見ればよかったのかもしれないが、部長や役員レベルになれば、他の商品との絡みや同業他社との動きなども影響してくるかもしれない。それなのに、同じことを繰り返しているだけではせっかくつかみかけた顧客も、取り逃がしてしまうことになる。

顧客の反応は自分を振り返る良い機会

だからと言って、何も一から十までこちらが事前に調べて顧客に話す必要もない。自信のないところや、顧客の捉えている事実と違っていないか、時折振り返って、顧客に間違いがないかを確かめればよい。その時の反応を見れば、自分のしている話に顧客は満足しているのかもまた分かるだろう。万一不満な様子が見て取れたら、どこか間違っていたのか、どこに不足がありそうなのかを聞いてみよう。顧客によっては、貴重な情報を教えてくれることもある。たとえその営業で失敗しても、それは次の営業で生きることになる。

営業に対して顧客はたとえ不満があっても、それを口に出して言ってもらえることはなかなかない。不満があった時は、ただ黙ってこちらからの提案を断るだけだ。たとえ断る際に理由を聞いても、「いや私はいいと思ったのだけどね…」などと、まるで提案したこちらにはまったく非がないような説明をしてくれることが多い。聞いた方もまんざら悪い気はしないので、それをそのままに受け取ってしまったりする。面と向かって話を進めている時は、自分の実力を知らせてもらえる本当に良い機会だ。そう思って全力でぶつかっていくことが、いつまでも大切なのではないだろうか。