あなたもベンチャー企業

ベンチャー企業には明確な定義はないようだが、一般的には新技術などでイノベーションを起こして急成長を志向する若い企業のことを指すとされる。この多くの場合は外部からの資金調達を行って成長し、短期間での株式公開(IPO)を目指す。

このベンチャー企業が成長していく過程は、いくつかの成長ステージに分けることができるとされる。それはシード期、スタートアップ期、急成長期、安定成長期の4つだ。ベンチャー企業のこの成長ステージに合わせて、必要なマネジメントと資金調達方法などをいかに行うかが重要になってくる。

ベンチャーの成長のための4ステップ

まずシード期は起業する前の段階に当たる。シードとは「種」を表す。ビジネスの種である技術シーズやアイデアを見つけて、それを元に事業コンセプトを固めて起業するまでの段階だ。

スタートアップ期は起業した後、事業が軌道に乗るまでの段階。この時期は事業を立ち上げるための先行投資が必要となる。一方でまだ売上が少ないため、通常は赤字になる。この時期の資金調達は、企業にまだ信用がないために経営者自身や家族・親戚、友人などの周囲に頼ることが中心になる。事業プランが有望で認められれば、個人投資家であるエンジェルや、ベンチャーに出資する投資ファンドであるベンチャーキャピタル(VC)に出資してもらえる場合も出てくる。

急成長期は市場での認知度が高まり、事業が急速に成長する段階に相当する。この時期にようやく黒字に転換することが多い。しかし、資金面では成長するために運転資金や設備資金が多く必要になるため、資金需要は多くなる。一方、まだ信用が確立されることころまでもいかないため、民間の金融機関からの信用は低いままだと覚悟しておかねばならない。このため、資金調達はベンチャーキャピタルや政府系金融機関からの出資・融資などが中心になる。政府系金融機関には日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、日本政策投資銀行などがある。

最後のステージである安定成長期は市場での認知度が確立し、収益性が最も高くなる段階。一方で市場が成熟化するため成長は鈍化する。この段階では収益が大きくなるため、これまでの累積赤字も解消される。社会的信用も確立してくるため、民間の金融機関からの融資が受けられやすくなる。また、この時期にはると株式公開(IPO)をすることで、株式市場から大量の資金を調達し、さらなる成長の原資を得て大企業になっていく企業も現れてくる。ベンチャーキャピタルが出資をしていた場合は、この株式公開によってベンチャーキャピタルは投資資金を回収し、収益を得ることになる。

整備されたファンドによる資金調達

複数の投資家が集まってベンチャー企業に投資をする際、投資事業組合(ファンド)を作り、それぞれの投資家が出資額に応じて株式などの配当を受ける、という方法がある。従来この投資事業組合は、多くの場合、民法上の「組合」として作られてきた。しかし、民法上の組合には投資事業組合の業務執行に関わらない投資家も“無限責任”を負うことになってしまい、出資額以上の責任を負わねばならないというリスクがあった。このため、投資家がリスクを嫌って投資事業組合に参加したがらず、ベンチャー企業への資金供給が進まないという事態を招いていた。

ところが1998年施行の法律によって、「投資事業有限責任組合」の制度が創設された。この投資事業有限責任組合では、組合の業務を執行する組合員は無限責任であるものの、投資をするだけの組合員は有限責任となり、出資額以上の責任を負うことはなくなった。これにより、多くの投資家が安心してファンドに参加できるようになり、ベンチャー企業の資金調達が円滑に進むようになったとされている。

どこで脱落するのか

このようにベンチャー企業の成長ステージを見てきたが、実際にはもちろんすべてのベンチャー企業が順調に成長できるわけではない。それどころか、現実は途中で脱落する企業の方が圧倒的に多いのはご存じの通りだ。これらベンチャー企業が事業を軌道に乗せるまでに直面する様々な課題を表す言葉として、「魔の川(デビルリバー)、「死の谷(デスバレー)」、「ダーウィンの海」というのがあるので、参考までに紹介しておこう。

「魔の川」というのは基礎研究から製品化のための開発段階に進む際の課題を表現する。企業や大学などで行われる基礎研究により、技術シーズ(基礎研究により生み出される新商品やサービスのネタになるような技術)が生み出される。しかし、技術シーズのうち、その技術を生かして市場のニーズに合った製品化が可能なものは多くない。そのため「魔の川」を超えられないケースが多いとされる。

「魔の川」を超えると製品開発段階に入るが、次に待っているのが「死の谷」だ。「死の谷」は製品やサービスの開発段階から事業化段階に進む際の障壁を指す。つまり、市場への投入を目指して製品やサービスが開発され、量産化や販売を前提にした準備が必要になってくるが、採算が見込めなかったり、量産化が難しいなどといったことが起こったら、市場投入できなくなる。

さらに「死の谷」を渡って商品やサービスが開発できたとしても、次にはそれらを実際に市場に投入し、販売網を整備し、競合に打ち勝っていかねばならない、この事業として軌道に乗せていくときの困難を「ダーウィンの海」と呼ぶ。
起業の際には、こうした障壁があることを十分にわきまえてそれらに備え、対応することが求められる。