事業が今どの段階にあるのかを見る

起業して数年も立ってくると、柱となる事業を2つ3つ持つようになることがある。あるいは、初めから「経営の安定化」を目指して複数の事業を視野に入れた起業家もいる。この複数ある事業を管理する方法に有名なプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)がある。ボストンコンサルティンググループが提唱したもので、多角化した資源配分を検討するツールとして知られている。PPMでは市場の成長率と自社の相対的な市場シェアから各事業の位置づけを明確にする。このPPMの図を見ると市場成長率と相対的市場シェアの2軸があり、それぞれ高い、低いと分割するので、2×2のマトリクスになっている。

事業(戦略事業単位:SBU)はこの2×2のマトリクス(つまり4つの象限)のどこかに位置付けられることになる。例えば、市場の成長率が高く、市場シェアも高い事業は「花形」という象限に位置付けられる。このように自社の複数の事業をPPMに置いてみると、そのバランスが分かるようになる。そして、どこに資金を投資すればよいのかを考える手段にすることができる。


利用前に押さえておきたい2つの経験則

このPPMの説明に入る前に、PPMが前提としている2つの経験則から押さえていく。

1つは「経験曲線効果」と呼ばれるものだ。これは企業である製品の累計生産量が2倍になると、1製品当たりのコストが20~30%減少するというもの。人が生産に習熟したり、生産の仕組みを改善したりする経験が蓄積されてくるため、コストが低減すると考えていく。この経験曲線効果によれば市場シェアが高い企業がコスト面で有利になる。シェアが高い企業は他の企業より累計生産量が多くなるので、経験曲線効果が働き、より安いコストで生産できるようになる。その結果、より多くの利益とキャッシュを得ることができる。

2つ目の前提は製品ライフサイクル。この考えによると製品は導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つの流れを経る。導入期はまだ生産量が少なく、売上も低い状態。一方で製品を認知されるための販売促進費や生産設備の投資が必要なため、事業から得られるキャッシュはマイナスになる。

成長期は売上がどんどん伸びるが、事業を拡大するためには大きな投資が必要になる。このため得られるキャッシュもまだ多くない状態になる。
成熟期は成長も落ち着きシェアも固定してくるので、安定した売上になっていく。また追加投資もあまり必要なくなるので得られるキャッシュは最も多くなる。
衰退期は売上が落ち込み、製品の寿命が終わる前の状態。売上が減るので得られるキャッシュも減る。

最もキャッシュを生むのは「花形」ではなく「金の成る木」の段階

これらの経験則をもとにPPMの4つの象限の中身に入っていく。

まず「花形」の事業は成長率が高く自社のシェアも高いので注目を集める事業。製品ライフサイクルでは成長期の後半に相当する。ここでは成長分野なので競争も激しいが、競争に勝ち抜いて高いシェアを実現することができれば、次の「金の成る木」に移ることができる。

「金の成る木」の事業は自社のシェアは高いものの、市場成長率は低くなっている事業。製品ライフサイクルでは成熟期の事業に相当する。シェアが高いので売上は多く、成長も落ち着いているのでそれほど多くの投資も必要ない。よって名前の通り金の成る木として、最もキャッシュを生む事業になる。

しかしそんな金の成る木の事業であっても永遠に続く製品などないので、いずれは衰退期に移行していく。そのため、得られたキャッシュは将来の有望な事業に投資し、企業の次の柱を育成していく必要がある。この将来有望な事業は「問題児」という象限に存在する。
「問題児」の事業は、市場成長率は高いものの自社のシェアが低い事業。新規参入した事業は大体この象限に入る。製品ライフサイクルでは導入期から成長期前半に相当する。シェアが低いので売上は多くない。また市場が成長している中でシェアを高めていく必要があるため、沢山の投資が必要になる。そして、シェアを高めることができれば、この事業は「花形」になることができる。
一方、「負け犬」の事業は、市場成長率は低く自社のシェアも低い事業。売上が小さくなるので事業の見極めが必要になるところだ。

PPMの問題点

PPMによれば、問題児の事業のうち有望なものを見つけて、金の成る木で得たキャッシュを投入して、花形事業を作っていくというのが基本的な流れになる。このように複数の事業を位置付けるのに便利なツールとして用いられているのだが、問題点もなくはない。

その1つは、これが財務の視点からしか考えられていないということ。実際の事業の管理には資金の流れだけではなく、人材や技術などさまざまな要素が絡み合っている。PPMではそれらが考慮されていない。

また、過去のデータの分析に過ぎないので、将来の事業戦略を作成するのは難しいということもある。そのほかにも、「負け犬」と位置付けられた事業のモラールが低下するということがある。その事業に関わっている人たちにすれば、やる気や士気に大いに関わってくる。

さらに事業間のシナジーが考慮されていないという問題もある。つまり、仮にある事業を撤退するという判断を下した場合、通常は他の事業とのシナジーを無視することはできないのだが、PPMではそれが表現されていないということだ。
PPMは比較的理解しやすく実際にもよく用いられているものだが、このような問題点もあるということをしっかりわきまえたうえで臨むことが必要だろう。