リスクマネジメントと危機管理の違い

私も昨年から新型コロナの感染拡大に振り回されているのだが、企業経営の面から見た時、このことで改めてリスクマネジメントと危機管理の重要性が思い知らされた。この機会にせめて、これら双方の振り返りをしておくのもいいかと思う。

まず基本的なことになるがお許しいただくとして、そもそもリスクマネジメントと危機管理はどこがどう違うのだろうか、すぐに答えられる方はどの程度おられるだろう。リスクマネジメントの基本は、想定されるリスクが起こらないように、そのリスクの原因となる事象の防止策を検討し、実行に移すことを指す。これに対して、危機管理は危機が発生した時に、その負の影響を最小限にするとともに、いち早く危機状態からの脱出・回復を図ることが基本になる。

つまり、リスクマネジメントでは想定されるリスクを予め抑え込むことが主眼にあるのに対して、危機管理では危機が発生した時の対処法が検討の中心になるということだ。今の新型コロナの感染拡大には、まずその現下の危機を乗り越えるための危機管理が求められているのだが、やがて春を迎え、気温が上がるに従って感染拡大にも一定の歯止めがかかるようになれば、比重は次の感染拡大を抑えるためのリスクマネジメントをどのようにするかの検討にシフトすることになるのだろう。

プラス、マイナスあるリスク

そのリスクだが、企業経営で見た時のリスクは、広く社内外の環境の変化を指す。だからそれが企業経営にとってマイナスなことばかりでなく、プラスになることもある。このことを投機(戦略)リスクと呼んでいる。その一方、企業経営にとって損失にしかならないリスクは純粋リスクと呼ぶ。例えば、企業戦略とその遂行に係るリスクでプラスにもマイナスにもなるリスクは投機(戦略)リスクだが、マイナスにしかならないコンプライアンスリスクや不正リスクは純粋リスクとなる。

一般にはリスクマネジメントは日常的で発生が予見でき、おおよその損害額も見積もることができるリスクを対象にしている。これに対して、地震などに代表される自然災害や戦争などのリスクのように発生の可能性が予見困難で、被害額の見積もりも困難なようなものは危機管理の出番だ。結局概念的なことをあれこれ言っても、日常的なリスクであっても大規模になれば危機管理対応をする必要が生じるし、危機ではあっても日常的な兆候についてはリスク管理の範疇に入ってくる。従って、現実には重複する部分も多いと理解するのがよいのだろう。

危機管理に欠かせないBCP

リスクマネジメントの手法は、一般的に①リスクの発見及び特定、②リスクの算定、③リスクの評価、④リスク対策の選択、⑤リスク対策の実施、⑥残留リスクの評価、⑦リスクへの対応方針及び対策のモニタリングと是正、⑧リスクマネジメントの有効性の評価と是正―というプロセスを経る(2016年版中小企業白書より)。例えば、業績の変動や技術革新は投機(戦略)リスクであるため、その振れ幅を管理することになる。クレームやトラブル、不祥事への対応は純粋リスクであり、迅速にかつ前向きに行うことが大切になる。さらにある一部門で対応するのではなく、全社横断的に情報を共有し、対応することが求められる。

危機管理は予め予測することが困難である事態が発生し、それに適切に対応しなければ企業の存続が脅かされるようなことへの対応だ。それは日常的なリスクと違って、発生してからでは管理することは難しい。従って、事前に事業継続計画(BCP)を策定し、対応を日常的に訓練することが求められる。BCPは企業が事故や災害などの緊急事態に遭遇した時に、損害を最小限にとどめ、中核となる事業の継続や早期復旧を可能にするための方法や手段などを事前に取り決めておく計画だ。BCPで策定したマニュアルに基づいて、速やかな行動で企業が被ったダメージに対していかねばならない。

リスクや危機に備えることが必須に

事業活動にはリスクや危機がつきものだ。そんなことは言われなくても分かっているだろうが、なかなかそれらへの準備ができていないのが現実だ。新型コロナの感染拡大についても、昨年までなら「想定外のリスク」ということで片付けることもできたかもしれないが、これからは十分に事前のリスクマネジメント、危機管理対策の双方を用意しておかねばならない。1社の危機はそれに関わるすべての企業に影響する。それをわきまえた行動をとっておくことが企業の社会への責任でもある。

2021年はどんな年になるのかー神ならぬ身には分かりかねるが、ある経済誌は社会に大きな変化が現れる年と予言している。そうでなくても地球環境問題は年々深刻さを増し、自然災害は近年、毎年のように猛威を振るっている。新型コロナをめぐっても、企業の従業員などから匿名で感染対策が徹底していないことや感染者が出たことをSNSで明かすことが相次いでいて、当該企業はそれに振り回されている。「想定外」という言い訳も色あせて見え、社会に通用しなくなっている今日、企業の普段からの準備と覚悟が問われている。