質より量

ある外回りをしている「敏腕」といわれる営業マンにそのコツを伺うと、「実はコツなんて何もないんです。ただ営業量だけは誰にも負けない自信があります」と話していた。よく営業のコツはコンサルティング力にあるとか、質を磨かないといけないとか聞いていたので、ちょっと拍子抜けがした。

しかし、もともと戦争における用語の一つで、今やマーケティングにも使われているランチェスターの法則にも、「攻撃力=量の2乗×質」とある。これを解釈すると、質も重要だが量があっての話だということが分かる。まず量を増やさないと、攻撃力を増すことにつながりにくいということだ。

それに関連して、成功している社長は大概朝が早いといわれる。ある調査によると業績の良い会社の社長は、朝7時半には会社に来て、例外なく長時間労働が多いそうだ。

先日訪問した溶接機械を製造している中小企業でも、社長が毎朝6時には出社しているという。秘書をしている女性はさすがに社長の行動に早朝から付き合うわけにもいかず、朝9時の出社のため、社長が外からの来客をさばくのはそれからになるが、それまでの時間は誰にも邪魔をされず社業に専念できる貴重な時間なのだという。その会社は社長自ら考案して取得した特許で、今や日の出の勢いで業績を伸ばしている。

 

テクニックに溺れない

スポーツの世界でも同じだ。オリンピックのメダリストの話を持ち出すまでもなく、活躍する選手は例外なく人並み以上に練習をこなしている。それを技や持ち前の運動能力に頼ったりする人ほど、一時的には成果は上げられても結局それは長続きせず、選手生命も短いものになったりしている。

よく経営相談などで、売り上げが伸びない、経営がうまくいかないなど寄せられるが、そもそもそういった人たちが一日何時間働いているのか。もし働く時間が人並みでしかないなら、やはりそれは人並みの成果しか得られないということになる。そこを分からずにテクニックに走ろうとして悩んだところで、そこからは成果は上げにくい。

もちろん、努力を多くするといってもそこにやり方というのはありそうだ。冒頭の営業マンの方も、いかに訪問件数を上げるかを考えた結果、エリアを絞り、自腹で買った自転車で街を走り回り、訪問件数をそれまでの3倍~5倍に引き上げたという。その結果、その営業マンはその社内で一番の営業成績を残している。エリアを絞らないままに走り回っても効率は悪いだけだ。同じく長時間働いているといっても、移動時間や会議などが多いと、何のための労働かということになる。

時間を忘れるくらいに没頭する

だから「誰でも楽に成功する方法」なんて本が出回っているが、それを額面通りに受け取るとバカを見ることになる。簡単に成功が手に入るなら誰も苦労はしない。最近の「働き方改革」の話し合いを見ていても短時間労働が推奨されているが、それで仕事の成果に結びつくかというと、そんなものは錯覚にしか過ぎない。

もっとも、そんなことを声高に言えば、人手不足の中で採用難に陥ることになる。だから、労働時間を濃密なものにするために、営業手法を変えたり、各種制度を整えたりするわけだ。やたら権利ばかりに目が行く人たち、特にまだ仕事のイロハさえまだ分からない就職活動中の学生たちの中には、そんな基本が分かっていない人もいるのではないだろうか。

「思い」を実現するには、時間を忘れるくらいに仕事に没頭することがむしろ早道なのだ。

ラジオを聞いていた時だったように思うが、ある番組で子供の母親らしき人から、「何時間練習すれば浅田真央さんのようにオリンピックに出られますか」との相談があった。もちろん、成功のためには練習量が大切だが、決して量をこなしたからといって結果が必ずついてくるわけでもない。仕事でも多く働いたからといって、成果が保証されないのと同様だ。量は必要ではあっても十分ではないわけだ。この母親には悪いが、こんなレベルの質問をしている間はオリンピックは夢物語だ。

初心を忘れず続ける

成功のためのもう一つのコツをいうと、それは「続ける」ことだろう。量(労働時間や営業量)を多くすることについての必要性はお話しした通りだが、それが一過性のものであっては成功は覚束ない。ところが、この続けることもなかなかに難しい。一時はガムシャラに働いて成功を収めても、少し時が経つと「そろそろ楽をしたい」との思いがかすめたり、あるいは考えが自己中心的になる社長が増えてくる。

実際に、起業して7,8年も経つと、その時成功していれば成功しているほど自分に直言する人もいなくなり、自然と経営が横柄になってくるとされる。そうなると大切な顧客から注文をもらっても、「それが当然」というような考えに陥り、感謝の気持ちを無くしていってしまう。

自社の業績が悪いのを、「景気が悪い」、「政府が悪い」、「立地場所が悪い」などと言ったりするが、突き詰めて考えると社長自身の努力が足りなかったり、努力を続けられずに傲慢に陥ったりしていることが原因であることが多い。

つくづく企業経営とは奥が深いものだと思わざるを得ないが、要はそれを「楽しむ」ことが大切だ。先人たちの記録を読むと、毎日の苦労こそが後々の楽しみにつながることを示してくれているように思う。