ストレスは強度×持続期間

コロナ禍が社会を覆って以降、仕事上では「人と直接会いづらくなったために思ったように営業ができなくなった」とか「観光客や人の流れが減って売り上げが激減した」といった切実な影響が出ているが、私生活の上でも「趣味だった○○ができなくなった」とか「好きだった○○ができなくなって辛い」といった声をよく聞く。公私ともにどうにもならないこととは分かっていても、少し厳しい言い方になるかもしれないが、コロナ禍に関わらず一般に何か障害が起きた時、そこで立ち止まってしまう人と、「だから○○を始めました」とその先に進める人がいる。

コロナ禍は、私たちが経験する数々のストレスの中でも、ほとんど誰もが予想もしなかった規模でまん延し、いつまで続くか分からないといった点で私たちに大きなストレスを与えている。このストレスを「強度×持続期間」という数式で表したのが産業医で日本ストレスチェック協会の代表理事をしておられる武神健之氏。ここでいう強度とはインパクトの強さを表し、事前にある程度予想できていたことは実際に起きてもそれほどの衝撃を与えない。持続期間はいつまで続くか、これも終わりが見えていればある程度は耐えられる。コロナ禍はその両方の点から見て、なかなか手ごわいストレス要因となって私たちを襲っているということだ。

ストレスに強い習性を備える

今のようにこうした強いストレスにさらされた時、ストレスに強い人とそうでない人との差が顕著になってくる。ストレスに強い人はどんな人なのだろう。武神氏のお話を参考までに紹介させてもらう。

武神氏はまず、ストレスに強い人の習性として、普段から「好きなことをしている」ことを挙げている。武神氏は、メンタル面での疾患で休職を余儀なくされる人たちに「趣味は何ですか?」を聞くと、高い確率で「ないです」という答えが返ってくるという。逆に、多忙にも関わらず元気な人に理由を尋ねると、「本当に忙しいですよ。月に1回トライアスロンもやっていますし」などという驚きの返答が返ってきたこともあるのだという。よく言われるようだが、好きなことをしている人はストレスに強いということを証明している。

また、日頃から幾通りかのシナリオを頭の中にでも描いていて、不測の事態にも備えることも大切なようだ。「もし自分が新型コロナウイルスに感染したら」「もし自分の会社が倒産目前まで追い込まれたら」など、いくつかの場合についてそれが現実化した時を予めシミュレーションしておくと、いざという時のショックが和らぎ、立ち上がりが早くなるのだそうだ。逆に、こうなったら最高というベストシナリオも作っておくと心の均衡も保てるだろう。

時間、空間、五感を区切る

ストレスを感情に置き換えれば「緊張感」だと言える。緊張が続くほど心はすり減っていく。武神氏はこの緊張の区切り方も大切だという。そして、その区切り方の例として、「時間を区切る」こと、「空間を区切る」こと、「五感を区切る」ことの3つを紹介する。

まず「時間を区切る」とは、端的に言うと、休み時間を意識して取ることだ。人間の集中力は無限には続かない。予め休みを決めて物事に取り組んだ方が、高いパフォーマンスが取れるとしている。
「空間を区切る」とは仕事と生活の場所を変えたりすること。だからコロナ禍で広まっている在宅勤務の弊害の一つとして、仕事が終わっても勝手に気分が変わるということがなくなったことだ。感染症対策に気を配って週末に出かけるのも良いが、近所に散歩に出たりして、意識して気分を変える試みをすることで、随分楽になることもあるだろう。
「五感を区切る」というのは、例えばアロマを焚く、絵画を鑑賞する、音楽を聴くといったように方法は何でもよいのだが、五感への刺激が気分を変え、リラックスするきっかけになるということだ。

自己規律が必要な時代

武神氏はこうしたメンタルの習慣以前に、そもそも体が疲労していればそれだけストレスに弱くなると警告もする。というのも、コロナ禍で在宅勤務や出勤時刻の変化によって、食生活や睡眠の習慣が乱れてしまっている人も多いからだ。食事に関しては、当然ながら3食をきっちりとることが必要だ。忙しくて朝食がとれないようであれば、せめて野菜ジュースを飲んだり、たまには卵やバナナを食べるなど、最低限の食事を確保するように努めなければならない。睡眠に関しても、武神氏によれば、4時間程度しか眠れない状態が2週間続くと、メンタル不調に陥る確率が高まるのだという。気を付けたいところだ。

武神氏はまた、悩んでいる人の多くは自己肯定感が低下しており、助言を与えるよりも話を聞いてもらうことを求める傾向にあるのだという。このようにコロナ禍のようなストレスフルな世の中にある今日、私たちに求められるのは人間として求められる基本的な生活であり、そのための自己規律だということが分かる。コロナ禍のいつまで続くか分からない状況を嘆いても仕方がない。ここは変えられるのは自分だけと腹をくくり、この状況だからこそできることに目を向けることが肝要だ。そうして自分を変えていける人こそが、これから生き残っていけるのだろう。