強みに戸惑う経営者

私はほぼ毎日いろいろな企業の経営者にお会いさせていただいているが、相手がどんな企業であってもその経営者に会う時、最初に聞くのは「何を強みにしておられますか」ということだ。そうすると案外、これはご本人の謙遜も含まれているのかもしれないが、「うちの強みって何だろうか」と首をひねる経営者が多いことに気付かされる。そのことに最早驚くことはないが、これではせっかく強みがあっても、正しく経営者が認識していないという状態にほかならず、とても残念なことに思っている。企業を繁栄させるためには、言うまでもなく自社の強みを認識し、日々それに磨きをかけて社内外に示すことが重要だと思うからだ。

実はどんな企業でも、さまざまな場面で社外の人からどんな強みがあるのかチェックされている。そのことを意識していないだけだ。例えば、人材の募集、金融機関からの資金の調達、販売先の開拓などの際、面と向かって「御社の強みを教えてください」とは聞かれなくても、結局別の形でそれが何なのか、どの程度本物なのかを試されていることがほとんどだ。人材募集に応募するのに、まさか数年後にはどうなっているのか分からないような企業に誰も入りたいとは思わないし、銀行だっていくら金余りの時代でも強みを持たない企業に資金を融通しようとするほどお人よしではない。

ありきたりの強みでは共感を呼べない

「企業の強み」というから戸惑いがあるのかもしれない。「企業の存在意義」「顧客が選ぶ理由」「競合優位性」…これらはすべて表現の違いだけで、同じことを言っている。特に規模に劣る中小企業は、独自の強みがあるからこそ生き残っていけるのだ。だから、今、事業を行っている企業には基本的に何らかの強みが必ずあるものと私は考えている。ただ、それがなかなか明確に認識されていないことが多いのだ。「真面目に、頑固に、丁寧に仕事をすることが唯一の強みです」と答える経営者もおられるが、それを聞いた人は果たしてどのくらいその企業の強みを認識できるだろうか。

表現があまりに当たり前過ぎるのだ。逆に真面目に仕事をしていない企業なんてあるのか、丁寧に仕事をしていないところってどんなところだろう。こうした抽象的で主観的な言葉を並べるだけでは、社外の人たちだけでなく社内の従業員にまで企業の魅力を伝え、共有することができない。「わが社の強みは技術力です」と答えるのも同じだ。ポイントは絞られている感じがするが、これにしても客観的な視点がないので聞いた人はピンとこないだろう。説得力のある表現とは、具体的でかつ客観的な表現ができているものだ。

その強みは正しいのか

例えば、ある特殊な機械を欧州に輸出している企業の経営者は、「わが社の強みは10万件のお客様リストを持っていることです」と話す。万一、隣に20万件の顧客リストを持っているところがあったとしても、欧州諸国に定期的に購入してくれる顧客が多数あることで、安定的な事業経営のできていることが伝わってくる。このように数値で強みが表現できる場合は、その数値を出すことが説得力のある強みとして受け入れられやすくなる。しかし、すべてがすべて、そんなにうまく強みを打ち出せないかもしれない。何より経営者自らが強みを正しく認識していないことさえある。そんな恐れがある場合、自社の強みについて社内のスタッフでブレンストーミングをしたり、顧客に聞いてみても良い。

「独自の強み」は一朝一夕にできるものではない。繁盛している飲食店の店主は、自分の店の味が優れていると思い込んでいるかもしれないが、実は駅前という立地が他店より優れていただけということもある。これなどは強みと考えている部分が実は強みでなかった例だ。ピーター・ドラッカー氏もその著書「プロフェッショナルの条件」の中で、「強みとは何か」の項目で、以下のように述べている。「誰でも自らの強みについてはよく分かっていると思っている。だが、たいていは間違っている。分かっているのはせいぜい弱みである」と辛らつだ。

素直に向き合うことで分かる強み

要は具体的でかつ客観的な視点で、自社の強みを発見することが大切になる。手っ取り早く強みを見つける際の切り口として多いのは、まず、販路・取引先があげられるだろう。安定した販売先を多く確保しているとか、特殊な市場への販路を持っている、独自の仕入れルートを持つことなどがあるだろう。次に人材・チームについて。専門性のある高い人材がいるとか、外部の協力者(企業)が多いなどがそうだ。また、支援者・人脈が多いということもある。WebやSNSでフォロワーや登録者が多かったり、独自のコミュニティーを持っている、イベントで多くの集客ができるなどがある。

しかし、より究極的には私は経営者が大切にする「こだわり」を知ることが、強みを知るに当たって大切だと考えている。いずれにしても、先ほど私はどんな企業でも強みはあるはずというようなことを言ったが、強みを正しく認識してこそそれは効力を発揮する。しかも意識して強みを磨いていかないと途中で見失ったり、せっかく磨いてきた強みでもそれと真逆な経営を行ったりすることがあるので注意が必要だ。聞き心地の良いだけの強みでは事業の方向性を間違うもとになる。ここは経営者自ら自分の心に素直に向き合い、真摯に考えなければならない。