広がる支援の輪

新型コロナウイルスの影響下、食をめぐる話題が何かと注目を集めている。中でもレストランや百貨店を主な販路にするブランド食材などの特産品は、通常の商品に比べて営業自粛などの影響を受けやすく、支援の輪が広がっているという。愛知県では国の緊急対策費を活用して、高級地鶏として知られる「名古屋コーチン」を買い取ることを決定し、約3億円の予算を計上したのだそうだ。早ければ7月頃から公立の小中学校などの生徒の給食として提供されるという。

全国有数の養殖カンパチの産地、高知県須崎市では、県外の料亭や寿司店などへの出荷が激減したため、民間の企画会社と市が運営するサイト「高知かわうそ市場」では卸売価格より3割安く販売をしたそうだ。市と同社が販路開拓のためブランド名を公募する企画も行い、官民一体でサポートする。また、宮崎県の新富町でも、特産のマンゴーの価格の下落を受けて、町と地元JAが市場価格より割高で農家から買い取り、ズッキーニなど他の地場産の食材と詰め合わせて、地元で贈答用に割安価格で販売を始めた。まだまだ他にも調べればいろいろありそうだが、当面の対策としてばかりでなく、長期的な市場の拡大につながれば面白い。

食糧危機に備える

今回の新型コロナをめぐっては、各国で自国ファーストの対策が講じられてきた。WTO(世界貿易機関)の調査でも、4月末時点ですでに80か国(地域も含む)において輸出禁止措置や制限措置が導入された。例えば、フェイスマスク及びゴーグルでは73か国、保護服は50か国、手袋は47か国、消毒液は28か国、薬は20か国、食品も17か国といった有様だ。多くの国や地域で、自国の人命と健康を第一にするという囲い込み政策を採った(採らざるを得なかった)のだった。それより以前から打ち出していた米トランプ大統領による「アメリカ・ファースト」の通商政策には批判の声が多く上がったものだったが、世界的パンデミックの最中にあっては、同様の措置を採ることが当たり前のようになっていた。

この自国ファーストの動きはどこまで正当化されるのかはそれぞれに意見があるところだろう。しかし、少なくとも歴史的な反省の流れの上に立ってできたのがWTOではなかったか。そのWTOでは当然のごとく貿易制限措置は禁止しているのだが、自国ファーストを認める例外規定も存在するのだという。それが「人、動物または植物の生命または健康の保護のために必要な措置」に該当すればということらしい。何だかそれを認めれば何でもその対象になり得るようにも思えるが、特に将来起こるといわれる食糧危機に際してはフェイスマスク程度の混乱で治まることはないだろう。

多様化する食の源

そう考えると、やはり食を支える供給網の確保はまず何よりも大切に考えなければならない。冒頭の危機に際しての生産者の支援などもその一つだろうが、ここでは次世代タンパク質として注目されている植物由来肉と昆虫食について取り上げてみよう。

植物由来肉とは肉を使わずに、大豆やそら豆などの野菜のタンパク質を主な原料として、味や食感、風味を本物の肉に近づけた食べ物だ。高タンパク・低カロリーというヘルシーさが売りで、ベジタリアンや宗教上の理由で食べられない肉がある人からも注目されている。家畜に飼料を与えて肉として食べるより、栽培した大豆などを直接食べる方が二酸化炭素の排出量を抑えることもでき、環境にやさしい食べ物としても見られている。すでに日本の大手ハムメーカーからも植物由来肉を使ったハンバーグ、ソーセージ、肉団子などが開発されている。それと言われなければ食べていても分からないほどだというから、すでに気づかずに多くの人の口にも入っているかもしれない。

それに比べて昆虫食はまだ馴染みが薄いだろう。しかし、この分野も確実に進化を見せ始めている。コオロギの粉末を手掛けるベンチャー企業は、昆虫食は地域で完結するタンパク源になりうると話す。牛や豚の飼育には飼料となる穀物を海外から輸入しているが、昆虫の餌には大豆や米ぬかなどの国内産業における副産物を利用できるからだ。

昆虫食ならではの可能性も

現在は一時的に閉じているというが、東京・南青山には蚕を味わうことのできる期間限定店舗もあるらしい。養蚕は日本の気候に適し、国内であれば生産場所を選ばない。蚕の機能性をこの企業と共同研究する京都大学の高橋春弥教授は「蚕は体の調子を整える機能性について、細胞実験レベルでは数千種類の成分が含まれていることが分かっている」といい、単なるタンパク質の代替ではない、昆虫食の可能性を示すことができるのではないかと期待する。

この夏にも「いもむしゴロゴロカレー」の販売を計画しているベンチャー企業もある。シアバターのもとになるシアの木に生息する芋虫の幼虫を使う。「エビと似てプリプリと噛み応えがある」という食感などがすんなりと市場に受け入れられるかどうか問題はありそう。しかし、今後も「安い、うまい、食べやすいを追求し、食文化として広めたい」といい、豊富なメニューの開発に力を入れる。昆虫食は長期保存でき、タンパク質や植物繊維を豊富に含むことから災害用保存食としての可能性も探る。食品としての安全性、おいしさ、手頃な価格が実現できれば、昆虫食が市民権を得る日は遠くないと見ている。