孤立していませんか?

どんなに小さな企業であっても経営者である以上、社員に厳しい判断をせざるを得ない時もある。私はサラリーマンをしていた時代が長く、だから同僚たちとそんな経営者の愚痴を言い合って、よく憂さを晴らしていた。それだから一層、経営者の置かれる立場の厳しさも分かる。企業がどんなに厳しい状況に置かれても、その時経営者がどんなに社員に呼び掛けても、普段から面従腹背を決め込まれているような経営者には誰もついていこうとはしないものだ。逆に、状況が厳しくなればなるほど、そのような経営者はどんどん孤立を深めていく。

それでは、どのような経営者なら社員は積極的についていこうとするだろうか。優秀な経営者と呼ばれる人たちは何が違うのだろうか。多くの情報を持っているのが優秀な経営者なのか、優れた判断力を持つのがそうなのか、あるいは人格なのだろうか。すでにいろいろなリーダーに関する本も出回っていて様々に話されているが、私の意見を述べさせてもらうと、それは誰よりも企業の行く末を考え、誰よりもそのために実践し、自己の成長のために努力をする人のことだと考えている。もちろん、情報も優れた判断力も、人格もあるに越したことはないが、何より経営者たるもの、常に成長していないとたちまちの内に見限られてしまう。

誰よりも努力し、成長すること

仮にも経営者が考え実践する以上に、社員がそれらを行い、追いつかれるようでは失格だ。日々の作業で精一杯忙しいのは分かるが、プラスアルファを自分に積んでいかないと成長はできない。常にその背中を社員たちは見ている。よく「組織のトップには情熱が必要だ」と言われるのも同じだろうと思うのだが、その情熱を周囲に見える形で示し続ける必要がある。結果を出すことはそのために必要なものにほかならず、十分な自己鍛錬を積んでいることも合わせてアピールしていかねばならない。皆さんが今、チャレンジしているものは何だろう。こうした問いにすぐに返せるだろうか。

チャレンジの目安は人によって異なるのは仕方がないが、筋トレと同じで、それを設定する時、「結構しんどいなあ」と思うぐらいでないと能力は伸びない。私のことが参考になるかどうか分からないが、ちなみに私の来週の目標は、①原稿を6本書く、②営業活動を2件する、③再来週の営業のための下調べを2件する、④長期のネタの仕込みを2件する、といったものだ。この目標を毎週更新し、実践できたかどうかをチェックしている。なかなか余裕を持ってチャレンジできていれば良いのだが、私の場合、予定外の仕事が入ってきたりすると、たちまち目標達成が後伸ばしになり勝ちだ。

権力で抑え込むのは本末転倒

最近では、「せっかく採用した若い人たちがすぐに辞めていく」と嘆く経営者も多いが、彼らが辞める理由に掲げる一つとして、「この企業にいても(この経営者についていっても)もう学べるものは何もない」と感じることだと言われる。そのように感じる若い人たちほど、最初はやる気があって、相当な学習意欲も持っていたはずだ。そして、貪欲に学習し、基礎のスキルならあっという間に積んでいくに違いない。そこからさらに企業にいて働いてもらうには、企業(経営者)が彼ら以上のスピードでチャレンジし、成長し続けるしかないのではないだろうか。

彼らの努力が企業(経営者)に追いつくということは、たとえ彼らが会社を辞めることにつながらなくても、企業にマンネリ化した状態を生み出す元になる。仕事のマンネリ化は周囲にも伝播する力を持ち、企業の成長を阻害するだけならまだしも、職場の雰囲気を退廃に導き、事故の原因にもなりかねない。しかし、念のために言っておくと、だからといって社員を権力で支配するというのはまったくお門違いだ。社員の努力に追いつかれてはならないと危機感を持たねばならないのは、あくまで経営者の努力に対する問題だ。だから逆に、もし社員から教えられることがあった時は、それを消化できるように積極的に取り組まねばならない。

真摯な心を持ち続ける

どうも経営者という立場にあると、常に意識していないと「自分が一番」だと思い込み、今以上に向上することから目を背けがちになる。それを避けるためには、やはり企業の外にも目を向けることだ。取引先でも顧客でも良いが、自分たちがしていることより圧倒的に凄いモノに触れることで、「自分はまだまだだ」と自覚し、更なる向上に目覚めることができる。彼我の差があまりに凄いと、その凄さに臆することもあるかもしれないが、それにビビっていても何も始まらない。経営者として、ここは圧倒されることで向上心を燃え立たせなければならないところだ。

経営者が「自分は一番デキるから、もう成長する必要もない」と思ったとしても、それを誰も諫めることはまずない。そうしてその経営者がたとえ坂道を転げ落ちたとしても、社員なら黙って転職するだけだろうし、その他の人たちもただ黙ってただ見ているだけだろう。経営者でいるということはそういうことなのだということを常に覚悟しておく必要がある。しかし、それでも経営者による不祥事や、企業が立ち行かなくなることはなくならない。経営者になっても真摯な心を持ち続けるということは、もしかするととても難しいことなのかもしれない。