明日は今日の準備の上に作られる

「イノベーションが必要と言われても実感が湧かない」「よく強みについて聞かれるが改めて考えているような暇などない」「企業のミッション?ややこしい話は聞きたくない」…企業を回っていると、普段何気なく交わしている言葉の中にも、「経営の基本」と言われることがいざ実践するとなると、なかなか思うように行っていない現実があることに気付かされる。とくに人手が限られている中小企業や個人事業主だとなおさら、今生きることに精一杯なのかもしれない。しかし、そんな企業こそ、原点に戻って考えてみることで、新たな気づきも得られるのではないだろうか。

経営の神様と崇められているピーター・ドラッカーに教えを乞うことにすると、彼は「明日は必ず来る。そして明日は今日とは違う」(「創造する経営者」より)という言葉を残している。当たり前のことのようだが、誰もが思う明日のために、今日準備を済ませておく人は少数だ。毎日繰り返される一日も、一度たりとも同じ日などはない。人や組織が身を置く環境が変化しているということは、大切なものを守りながら何かを変えなければならないということだ。「イノベーション」とはそのための方法を言う。例えばこのところ伝えられる新型コロナウイルスに関する状況は日々状況が変化している。それにはどう対応しているだろうか。

イノベーションで時代の変化に対応する

「機会を持たない企業は生き残ることができない。そして潜在的な機会の発見に努めない企業はその存続を運に任せることになる」(同)。

新たな事業の機会を持たない組織に未来はない。なぜなら、すべてのものは古くなるからだ。月刊情報誌「日経トレンディ」が選ぶヒット商品で、第1位が「食べるラー油」、第2位が155億円もの興行収入を上げた「アバター」、第3位が「iPhone4」、「Xperia」などのヒットが続いたスマートフォンが並べられたのは10年前の2010年。「食べるラー油」は具材を食べることのできるラー油として桃屋が「辛そうで辛くない、少し辛いラー油」を発売し、CM放送スタートと同時に売り上げが急増。インターネットでも話題になりその後派生商品も次々に生まれるなど、一大ブームを巻き起こした。

今たまたまこれらの商品を取り上げただけで、普段はブームなど起きにくいB to Bの商品やサービスでも商品の寿命は必ず存在する。企業はそうした時代の流れを見極めながら、業種・業態を変転させなければ生き残っていくことはできない。イノベーションはこの変転する社会や顧客の要求や期待に応えるため、新しい価値を社会に生み出すことに他ならない。組織の本質は、そのための社会的な道具に過ぎない。

強みは未来に向けて磨くことができるもの

「組織は存在することが目的ではない。(中略)外の環境に対する貢献が目的である」(「経営者の条件」より)。

イノベーションを成功させる第1の条件が社会の変化からイノベーションの機会を見つけ出すことになるなら、第2の条件は組織の強みを生かすことにある。そのために、自らの強みは何かが明確になっていなければならない。ここで注意をしなければならないのは、強みは蓄積された過去の中にあるものだが、未来に向けて生かすためには、それがさらに磨き上げていくことのできるものでなければならないということだ。

私が過去に行った企業研修では、組織の幹部社員に対して自社の強みを挙げてもらうと、すぐに50~300個程度の強み候補が出てくるのが常だった。逆に、まったく出てこなかった時もあったが、そんな時でも自社の商品やサービスが何故顧客に受け入れられているのかを実際に聞いたり、想像するだけで、比較的スムーズに出てきたものだ。しかし、通常はそれを数か月かけて分割、統合を繰り返すことで、最後は2~3個程度にまで絞り込むことになる。このように、「卓越性を持った真の強み」というのは、そう多くはないものである。

個の成長なくして組織の発展もない

イノベーションを成功させる第3の条件は、組織のミッション(使命)、すなわち目的に沿っていること。単純に儲かりそうだからという理由で新しい事業に飛びついてはならないということだ。そして、第4の条件は、イノベーションのための資源を手にしていること。「意識して非生産的なものや陳腐化したものを捨てている組織が、新しい機会に不足することはない」(「断絶の時代」より)。変化の激しい時代こそ、非生産的なものを捨てるチャンスでもある。捨てた者が多くの機会を手にすることを忘れずに、捨てる勇気を持たなければならない。そして残った資源、新たに得られた資源を未来に振り向けるのだ。

イノベーションとは決して自分たちの外にあるものでなく、組織に所属する一人ひとりの意識と行動によってもたらされる。だから組織は事業を通して社会に貢献するとともに、一人ひとりに成長の機会を与える場でもなければならない。この2つの目的を実現するためには「一人ひとりの人間が、自らの継続学習、自己啓発、キャリアについて責任をもたねばならない」(「イノベーションと起業家精神」より)。個の成長なくして起業家精神に富む組織や社会はなく、イノベーションの実現もない。私たちが改めて深く噛み締めなければならない教えだろう。