強みの源泉を見学してもらう

皆さんは顧客に対してどの程度コミュニケーションを取っておられるだろうか。製造業であれ、サービス業であれ、士業であれ何であれ、限られてはいるが私の経験から判断させてもらうとすると、ほとんど顧客とのコミュニケーションが取れていないのではないか。商品を売って終わり、サービスを提供して終わり、という風になっていないだろうか。それでも以前のように新規の顧客がどんどん見込めるような状況にあるのならいいが、もしそうでないなら見直した方が良い。

例えば、製造業なら工場や物流倉庫、小売業なら店舗の売り場やバックヤードのように、自社の競争力の源泉となっているところを顧客と一緒に見て回るだけでも良い気付きを得ることができる。近年では見学通路を設けた工場ができたり、近隣の小学生などを招いて工場をオープンにしている企業などもあるが、お話しを伺っていると、従業員同士では当たり前になっていることでも改めて強みとすることが認識できたり、そもそも他人の目が入ることで、従業員の励みにもなっているようだ。確かに小学生に自分の仕事を分かりやすく教えることを通じて、改めて基本の大切さを確認できる場にもなりそうだ。

顧客をファンに

顧客に対して多いのは商品や店のカタログ、財務情報や経営計画を提示して終わりといった感じだろうか。もちろんそうした情報も大切だが、企業の見学者が興味を持つのは、むしろ工場や店がどんな場所なのか、商品やサービスがどのようにして作られているのか、工場の作業員や店の店員がどんな人たちなのか、その他電話応対で出る人たちなど、どんな人が陰でどんな仕事をしているのかといったことにある。そういったことと普段の生活の中で目にした企業の広告などを総合して、企業の評価につなげる。企業体験の場があれば、そこで目にしたこと、現場での対応によって顧客が熱烈なファンに変わることもできる。

大企業であれば広報部や宣伝部などを置いて、そうした活動を企画したり管理したりするのだろうが、そもそも中小企業にはそんな部署など置いておく余裕があるところは少ない。そもそも、そうした企業のイメージが企業風土や従業員の意識などにも関わってくることを考えれば、全社的な活動が求められる。すでにQC活動やCS活動などを行っている企業は多いだろうが、そうした活動と同様、従業員全員が参加する改革運動のような取り組みになる。そうである以上、その推進に当たってはトップ自らが経営戦略として掲げ、行動することが不可欠だ。

クレーム対応で差

企業の見学を一例に取り上げたが、ファンを作れるかどうかは、クレームに対する姿勢を見ていればおおよそ想像がつく。ダメな企業は顧客からのクレームに対して臭い物に蓋をするような対応を取ることが多い。そこまではいかなくても、速やかにその場を収めて、次の顧客に対応することが優れた従業員として評価されたりする。しかし、クレームは顧客からの「声援」であると見れば、そのような声援に前向きに取り組むことによって、企業自身が成長することもできるのだ。そうしたことを考えれば、どれだけクレームを「声援」として受け取ることのできる従業員がいるかが、その企業の競争力そのものといえる。

企業のことを思っているのに、その場を対応する人がとにかく早々にクレームを処理して、穏便に収めようという態度が見え見えだったらどうだろう。それが仮にパートやアルバイトだったとしても、顧客にとっては企業を代表する人に変わりない。信頼していた企業に裏切られるような体験は、企業が考えるよりもダメージが深いものであることを肝に銘じなければならない。そうならないために、自社が顧客に対してどのような思いを持っているのかをきちんと全社で共有しておく必要がある。

顧客に感動体験を

顧客に対しては、企業の考えや方針などの情報を「開示する」だけでなく、きっちり相手に「理解してもらう」ことが必要だ。商品やサービスを宣伝する時でも同じだが、ただ言いっ放しでは相手に「伝えた」ことにはならない。顧客に理解してもらうためには、顧客の興味や知識のレベルによって、それに合わせた形で情報を提供していかねばならない。いくらホームぺージに十分情報を出していても、その内容が顧客の興味に合っていなければ見てももらえないのだ。

だから顧客をファンにするには、企業の商品、サービス、財務状況や配当方針などの提供だけでなく、商品やサービスの背景にあるこだわり、企業姿勢やそれらを生み出す研究開発体制、環境への配慮なども必要になる。そうした企業の姿勢に共感した時に、初めてファンになるきっかけを与えることができる。

そのためにはまず、顧客を分析して自社にどんな顧客がいるのかを知り、それぞれに合わせた情報提供をしていかねばならない。それも一方通行的な情報提供でなく、これからはインターネットをフルに利用して対話のできるものが有効になる。そうして顧客に「感動体験」を得てもらうくらいのサービス精神がなければいけないのではないだろうか。