苦境に立たされている洋菓子店

今もパティシエは子供たちの間で将来なりたいものの上位に来るという。しかし、街中の洋菓子店の経営は厳しい状況が続いているようで、倒産が相次いでいる。原材料費の値上がりに加え、人手不足、それにビジネスを取り巻く環境の変化が大きな要因とされる。現実は洋菓子ほどに”甘く”ないということだ。そもそも小麦やバターの材料費の値上がりは伝えられている通り。小麦は需要量の9割を外国から輸入しているが、主な生産地であるアメリカやオーストラリアで生育期における降水量が少なかったことがそもそもの原因とされる。バターにしてもすぐに供給を増やせるようなものではないらしい。

その原材料費の値上がりに加え、昨今の人手不足は洋菓子店の経営をさらに圧迫している。かなりの人気店でさえ仕込みの手が足りずに、今ではショーケースの中に空きが目立つのも珍しくない。以前は稼ぎ頭だったホールケーキも最近では予約制にして対応している店が増えているのだという。昔から「3~5年サイクルで人が入れ替わる」とされていた業界なので、せっかく雇った人が辞めるのは珍しい話ではないことが問題の放置につながってきたきらいもある。最近は独立志向の若者が少なくなって、「居心地の良いところで働く」という意識の変化がそれに一層輪をかけたわけだ。

業界外で大きな変化

洋菓子店にとって見落とせない変化は業界内だけではない。業界外でも、例えばコンビニで売られる洋菓子の品質が向上し、これまで競合相手としては考えられなかったところが台頭してきた。街のあちらこちらにあるコンビニ店が一気に競合店として浮上してきたわけだから、ちょっと考えてもたまったものではないだろう。一度売り上げが落ち込むようになると、もともとが日持ちのしないケーキのこと、毎日の廃棄ロスが増え、それが一層経営を圧迫するようになってくる。

家庭の中でも以前なら何か祝い事があると、家族がみんなそろって「ケーキを食べる」ことでその祝い事を分かち合ったものだ。他の家庭を訪ねるときも、最初の挨拶代わりにケーキを持っていくことが妥当で、無難とされてきた。しかし、今、その家庭の団らんの主役にいた子供が段々少なくなっている。だから他の家庭を訪問する時も、ケーキを持参することのハードルが高くなっている。たとえ子供のいる家庭でも、家族全員で食卓を囲む機会すら持ったことのない子供も決して少数派ではない。たまに家族全員が集まる機会があっても、「飲食店に行こうか」となってしまうといった有様だ。

スイーツブームも今は昔

かつて90年代後半から2000年代前半にかけて「スイーツブーム」と呼ばれたことがあった。百貨店にその地方の有名な洋菓子店などが競うように入った時代だった。それはちょうどバブル経済が崩壊した後で、それまで婦人服を始めとする衣料などに力を入れてきた百貨店が、それに代わって食品に力を入れ出した時だった。その時代を牽引していたのはファミリー層ではなく、80年代半ば頃から社会進出が盛んになったOLたちだったとされる。グルメに慣れたOLが自分が頑張ったご褒美用に、自分で食べるものとしてケーキを買ったのだという。

そうしたものの常として、ケーキはどんどん高級化していったが、2008年に起きたリーマンショックによる景気後退でそのブームも沈静化していった。このときケーキを買っていたOLたちはどこへ行ったのかと叫びたいところだろうが、実は彼女たちが向かったのはパンだといわれる。パンはケーキと違い持ち運びに気を遣わなくても済むし、日持ちもする。それに何より、食パン、菓子パン、惣菜パンなど種類も豊富にあり、食事以外に、おやつ代わりにもなることが魅力となっている。実際、最近はクリスマスにもフランスパンがよく売れるらしい。

コミュニケーション時代の主役であり続けるために

パンと共に、最近話題になったタピオカや台湾や韓国から来た斬新なかき氷などにも共通するのは、「気合いを入れなくても楽しく食べられる」ということらしい。一昔前ならドーナツやポップコーンのように手に持って食べられることも特徴という。

しかし、それでも洋菓子店の中にも地域の商店街の中などに今もしっかりと営業している店はいくらでもある。そうした店は商店街の各店舗がそれぞれ人との交流を多く持っているのが特徴とされる。これから在宅勤務が増えると各家庭でも交流が増えるだろう。家の中に人が戻れば、住宅街の中にある店でもテークアウトの需要が増えるかもしれない。店自体にイートインのコーナーを設けて、コミュニケーションの場を設けるところも増えている。逆に、スペースの関係でイートインのできない店では、近所のカフェなどと提携して、その店で買ったケーキをカフェで食べることができる試みも出てきているようだ。

商品そのものを日持ちのしない生菓子から、日持ちする焼き菓子に変えるという試みも多い。今後も洋菓子店が「コミュニケーションの時代の主役」としての存在であり続けて欲しいと思う。しかし時代に合った変化をしていかねば生き残れない。洋菓子店だけの話ではない。