ビジョンに実効性を持たせる要件

経営にはビジョンが大事とよく言われる。しかし、目指すべき姿を描くのことが大切なのは言うまでもないことだが、それが本当に機能するかどうかは別問題だ。ビジョンがただのスローガンになったり、絵空事になったりしている例も多いように感じられる。中には、「自社のビジョンは」と聞かれて、「何だかあったようにも思うが・・・」と考える従業員もいることは、私の限られた経験からしても決して特別な話ではない。ビジョンがあっても行動につながらない、誰も本気で目指そうとしないのは、これに数字が欠けていることが大きな原因だ。

ビジョンはそれを目指す行動につながらなければ意味がないことは誰でも理解できる。そのビジョンを実効性のあるものにするのに「3つの要件がいる」と指摘するのはアパレル・小売り企業の経営コンサルティングを行う平山真也氏。1つ目は「誇大妄想のような非現実的なものではなく、実現を思い描けること」という。あまりに現実離れしていては実行に向けての一歩も出ない。2つ目は「従業員がわくわくできるものであること」。誰しもそれが実現したところで大して面白くもないことに本気で取り組もうとは思わない。そして3つ目が「数字に落とし込むこと」。観念的・抽象的に語られるだけではそれに共感はできても自分の問題として捉えにくい。数字に落とし込むことが必要になる。

ビジョンで理念に具体性を持たせる

ありがちなのが、ビジョンと理念が混同されることだ。「顧客に愛されるホームページ制作会社を目指す」というようなものは理念としてはあっても、ビジョンとしては機能しない。「顧客に愛される」とは具体的にどういう状態を指すのか、どの程度愛されることを目指すのかが分からないからだ。これは理念であり、ビジョンとはまた異なるものだ。これに対して、「顧客満足度ナンバー1のホームページ制作会社になる」というのはビジョンになりうる。ただ、そのために顧客満足度が測れることが前提で、それが業界他社と比較できる状態にあらねばならない。

昨今は「高齢化社会」「人口減少時代」を受けて、成長しない(できない)ことが当たり前で、むしろ成長を目指すことが悪であるような風潮すらある。中には「成長に偏重した経営からの脱却」を掲げて、経営で目標数字をあえて掲げないことを良しとする企業もあるが、それは間違っていると個人的に思っている。ただ単に経営者の責任を放棄しているだけではないかとさえ考えていて、非常に腹立たしくも感じる。具体的な成長に向けた数字を上げることには大きな意義がある。単純に「3年後には売上高100億円を目指す」という風に掲げるだけでも、そのためにこの1年間は何をしなければならないのか、来年は何をどうすべきかといったさらに具体的な目標や行動が見えてくる。

手段と目的・目標を間違わないこと

もちろん、数字がすべてではない。目先の数字を追いかけるあまり、無理矢理にでも商品を押しつけたりして顧客の信頼を損ね、ブランドを傷つけるような行動をとるのは大きな間違いであることは改めて言うまでもない。成果主義を導入したために職場がギスギスしたものになり働きにくい職場環境になったとか、数値目標をクリアするために従業員にそのしわ寄せが行き、個人は過労に陥ってしまったりとか、数字を目標にすることに問題もあることは確かだ。しかし、それでも数字は自分たちが目標に対してどの位置にいるのか、そこから目的に向けてどういう行動をとるべきなかを明確に示してくれる手段になる。

問題はその手段が目的になってしまうことだ。そこさえきっちり経営でコントロールできさえすれば、数字は今でも非常に有効な目的実現の手段だ。これはビジネスに限った話ではない。もう間もなく始まる東京オリンピック・パラリンピックに向けて、アスリートたちは今、最後の追い込みにかかっている。そこでは個々の目標に向けて、毎日のスコアを記録に残し、残された日々の最後の調整を行っていることだろう。

数字をうまく使うことが大切

数字にすることで実現への道筋が見えてくる。ただそれだけのことだ。それ以上でもそれ以下でもない。先の平山真也氏は、「数字を伴う事なくビジョンや夢を語るのは、そこに至る道筋を考えずに到達できると思い込むこと、あるいは法螺を吹くことにほかならない」と厳しい。「どうすればなれるかも知らずに、『サッカー選手になりたい』という子供のようだ」とも。子供ならそれでよくても、恐れ多くも企業の経営者がそんな調子でビジョンや夢を語るのは恥ずかしいこととも言えるかもしれない。

数字を掲げるといっても単純な話では終わらない。会社にとって数字と言えば、まず予算がある。予算をどのように作るか、それをどう扱うかは会社の業績に大きな影響を及ぼす。予算の作り方にも色々あろうが、職場の各チームで作るボトムアップ方式、逆にトップダウンで作る方式などが代表的なものだろう。この調整に加え、人事評価などにも連動させることが効果的になる。人事・給与制度にも影響するとなると尻込みする例も多いが、時間をかけてじっくり取り組んでいくことが求められる。