まったく新しいものなんてほとんどない

いつの時代も要領の良い人や企業というのはあるもので、それを馬鹿にする風潮もあるが、しかし見ているとその方が成功の確率は高かったりする。仕事柄、企業が新製品や新しいサービスを発表する場によく出くわす。しかし、そのほとんどはまったく新しいというものではなく、これまで市場に出ているものの一部に手を加え、それで「新しい」と言っているだけだ。なぜ新しいことを強調するかといえば、その方が注目されるからであったり、価格の改定がしやすいためであったりする。しかし、その実は特段新しいものではない。要するに、既存の商品やサービスを「真似てちょっと改良した」に過ぎない。

しかし、じゃあその「真似る」ことが悪いことなのかと問われれば、決して真似ることが悪いわけではない。よく「学ぶは真似る」と言われるように、両者は同じ語源を持つ。私は小さな頃、鉄棒の逆上がりができなかったが、そんな時も、できる子の真似をして何とかできるようになったものだ。それと同じで、「新商品」「新サービス」といってもまったく新しいものというものは実は少ない。真面目な人ほどそれへの抵抗は強いだろうが、ノーベル賞級の発明や発見を目指すのならともかく、商売で必要とする程度にまでそれを求めると、逆に想像力の芽が摘まれてしまうことにもなりかねない。

徹底的に研究し、いいところを真似る

どんなに頭の良い人であっても、新商品や新サービスのアイデアなどそう簡単に生まれるものではない。単なるひらめきであっても、その最初のひらめきを形にするまでは膨大な時間やコストがかかる。それをいちいち待っていては、社会の発展もない。だから、他社でヒットした商品やサービスを徹底的に研究し、いいところは真似て取り入れ、工夫をするのだ。そうすれば、売れる可能性の高い商品やサービスが出来上がることになる。例えば大きさを変えるだけでも製品の使い勝手は大きく違ってくる。コンビニが自宅で作れば手間のかかるおでんを温かい状態で手軽に食べられるようにしたのもある種の新しさだ。新しく商品やサービスを出す以上、何でも画期的なものでなければならないと考えていては、それこそ商機を逸することにもなる。

企業の研究開発者に聞いても、常に世の中の動き、他社の動きなどにアンテナを張っていますという。それはつまり、その動きの中にこれだというアイデアを借りようとしていることが多いということだ。どの部分に食指がわくのかはその人の能力だったり感性によって異なる。そうしてアイデア不足や時間不足を補わなければ、なかなか事業としてはやっていけない。真面目な人や完璧を求める人ほど、アイデアが生み出せないとか自分の能力の限界を感じて、自分や企業が他の人、他の企業より劣っていると思いがちだが、それは大きな間違いであることを明言しておきたい。

真似で終わると「盗賊」と同じ

だからといって、そっくりそのままの真似で終わってはいけない。それは真似て工夫することとは異なり、真似ることそのものが目的になっているからだ。それは本物そっくりに真似て、そこから本来本物に与えられるべき利益なり賞賛といったものを、横取りしようとする行為に他ならない。自分が関わって新たな価値を加えようとする意思が見られなければ、いわば盗賊と同じ行為だ。海外の偽ブランドの問題もそこにある。最近の話題でいえば、アニメやテレビ、スマホのゲームなどの盗作行為も同じだ。いかに本物に似せるかが目的となっていて、何ら新たな価値を創造しようとする意思が感じられない。

そもそも、完璧に真似ることなどはまずできない。また、どんなに精巧に真似たとしても、どこか真似しきれない部分が出てくるものだ。それが本物を知る人には真贋の見極めにおいても、「何となく」違うと感じられてくる。逆に、そこに新たな価値を加えることは、本物に対するオマージュでもある。単なる真似で終わるのとは、天と地ほどの差がある。だから、他人のアイデアであってもそれをベースに工夫を加え一つの形に作り上げることは、決して恥ずべきことではなく、むしろ「要領が良い」ことなのだと褒められてしかるべきことなのだ。

どんなアイデアも実行されて価値が決まる

それでもせっかく良いアイデアが目の前にあっても、あるいは思いついたとしても、実はほとんどのアイデアは実現されていないといわれる。なぜなら、多くの人はアイデアをきちんとした形に設計できてから実行に移そうとするからだそうだ。これのいけないところは、少しでも不安があるとつまずいてしまい、いつまで経っても事業化できないというところにある。とにかくスピード感を持って、小さなところからでもまず取り掛かってみることが大切なのだ。

事業はアイデアと実行の掛け算で価値が決まるとされる。このことはどんなに優れたアイデアであっても実行されなければ何の価値もなく、逆に言えば、大したアイデアではなくても実行に移すことができれば、それなりの価値は出せるということでもある。Dropboxの創業者でもあるドリュー・ヒューストン氏は若い起業家へ送る言葉として、「アイデアがパーフェクトになるのを待っていてはいけない。早く始めること」と話している。スピード、スピード、スピード。洋の東西を問わず、成功の秘訣に特別なことはない。