一刻を争う現場でいかに機能させるか

災害などの危険な現場で迅速かつ正確に活動することが求められる消防組織。自然災害が続く日本においてその活動に対する注目は高まっている。一刻を争う危険な現場で無駄のない活動を的確に行う彼らの姿を見ていると、企業にもその組織面で参考になることも多いのではないだろうかと感じる。そこで、少し知り得た範囲ではあるが、消防組織について記してみる。

消防の組織は、「分隊」「小隊」「中隊」「大隊」のように部隊編成を定めるとともに、「隊長」「機関員」「隊員」などの一人ひとりの任務分担を明確に定めている。そして、目標達成のために指揮者の指示に従い、隊員が一致団結して活動を実施するために、厳格な規律の遵守が求められている。
一人では抱えきれない問題も集団で作業をすることで解決できるし、失敗をカバーすることもできることは他の組織と同じだ。人数が増えることで単に物理的に力が増すだけでなく、意思決定能力を向上させ、一人ひとりにやる気を与えるという効果がある。

リーダーに求められる4つの視点

一方、組織に伴う問題としては、間違った情報伝達によって全体の連携が崩れてしまう可能性があったり、組織の雰囲気などが間接的に影響して失敗を引き起こすことも考えられる。

消防の現場においては、刻々と変化する状況に対して隊員が集まって話し合うような余裕は当然なく、リーダーが部隊全体を引っ張って目標を達成する能力が大切になる。しかし、そのためには平常時から積極的に部下と会話をするなど、部隊の上下のつながり、横のつながりを密にして、信頼関係を築く集団維持機能が大切になってくる。

その部隊の信頼感を向上させるのに必要なのが、平常時にいかにリーダーが熱意を持って部下を育てようとしているかという態度だ。その態度で大切な4つの視点がある。それは、
①自分の経験談を踏まえながら指導する態度。つまり共感する態度
②隊員が失敗した時に、その隊員を成長させる視点から、罰よりもアドバイスをする態度
③問題が発生した時にその責任者を追及するのでなくリーダーを中心に全員で問題解決していこうとする態度
④すべての隊員に平等な態度
―だ。

一生懸命に仕事にまい進する気持ち、つまり「やる気」は本来人間が持つ「好奇心」や「上昇志向」「達成動機」によって得られる。また、個人の能力の向上のためには、それに向けた努力を認める取り組みが必要になる。日々の努力の成果を評価する取り組みの一つに、消防技術大会などがあるが、こうした公式な取り組みのほかに普段の会話の中で、「よくやった」と褒めるだけでもやる気は向上することが分かっている。

平常時の取り組みがカギを握る

現場における活動は時間との闘いになる。一刻も早く現場に到着し、状況の把握を行い、部隊配備の判断、行動の指示を実行しなければならない。このような迅速性が求められる時に、いちいち隊員間のコミュニケーションによって対応を協議して意思決定を行い、行動を開始していては対応が遅れてしまう。必要最低限のコミュニケーション手段である命令・報告を通じて即座に活動を実施しなければならない。

これは平常時のコミュニケーションによって隊員の間で思っていることを伝え合い、意思疎通が十分にできていることで築かれる信頼関係があってこそ、初めて成り立つものだ。つまり、①状況認識力の向上や②迅速な行動―これらは平常時の訓練やコミュニケーションによって身に着け、より強固なものにしているのだ。
ちなみに、命令する際の留意点としては、以下のようなことが挙げられている。
① 命令は意図を明らかにし、受命者の任務を明確に示す。
② 受命者の感情を考慮して命令を出す。
③ 特定の人に個別の命令を出す場合、能力や性格を考え、適任者を選び、命令内容と合わせて信任の意思表示を忘れない。
④ 時間がかかる作業は途中で確認しながら行う。
⑤ 複雑な命令は成果を見ながら命令する「二段命令」「三段命令」を考える。

組織の雰囲気も大切

最後に組織の雰囲気についても留意しなければならない。人間は判断や決定する際に、自分が所属する組織の考え方を判断基準とする場合があるからだ。その組織の雰囲気は、現場での活動だけでなく、平常時における活動で形成されていく。

例えば、上司が「訓練前の準備運動をしっかりやること」と指示を出しても、その上司自身が準備運動を十分に実施していなければ、隊員もしっかりやらないかもしれない。良い組織の雰囲気を作っていくためには、一人ひとりが正しく活動を実施しようという意欲を持ち、実際に活動を続けるという地道な取り組みが大切になってくる。

いかがだろうか、ざっと見たところでも随分普通の企業にも参考になる部分が多いのではないだろうか。ここにあるように「個人の成長ととともに組織も成長していく」ーそんな関係を普段から目指すことで健全な発展も図れるように思う。