上司にばかり報告していませんか

ある調査で日本のリーダーが社内の上司や部下と「ほぼ毎日話している」とするコミュニケーションの頻度は対象となった15か国の中で、インド、イギリス、フランスに次いで第4位だった。しかし、その話している相手というのが「上司の方が長い」という回答が半数以上を占めた。ちなみに上司と部下で「ほぼ同じ」か「部下の方が長い」とする回答がイギリスやスウェーデンでは8割近く、米国やドイツ、インドでも7割ほどの回答があったのに対して、日本で「ほぼ同じ」とする回答は最下位の中国に次いで2番目という低さだった。

その結果、上司と部下の関係における良好度は調査した15か国中、最下位という始末だった。思い当たる節のある方々も多いのではないだろうか。上司の意向ばかり気にして、部下には仕事を任せたきり、なんてことになってはいないだろうか。ポイントは「部下の受け取り方」にあるとこの調査では教えてくれている。つまり、部下が「上司と十分にコミュニケーションが取れている」と感じるほど、上司と部下の関係は良好になるのだ。日本ではそればできていない現状が明らかになっている。

部下の話を導き出す

よく「コミュニケーションの充足度」ということが指摘される。この「充足度」とは何かが問題なのだ。それを私の以前の上司は、「お互いの意見や考えを共有し、新しいアイデアや行動へとつながる対話」だとしていた。この対話が起きると、人はそのやりとりに充足を感じることができるというのだ。そして、その対話は、部下の話す量が多くなることで起きやすくなるものだとしていた。そのことは逆に上司からすると、いかに部下が話をし易い環境をつくり、話を誘導するかということが大切になるということだ。

自分の立場を意識し過ぎなのではないかと思う例もある。課長なのだから、部長なのだから、あるいは企業のトップなのだからと肩肘張って部下の上に立とうとして、周囲もそんな「強い」リーダーシップを期待することがあるが、それは上司にしても部下にしてもあまりに立場に依りかかり過ぎているように感じる。やはり自然が一番だ。「言うは易し」だと怒られそうだが、自分のささやかな経験から見ても、自然に部下を引っ張るためにもコミュニケーションが必要になるのだと感じる。

週に10分で差

それでは、成功しているリーダーのポイントはというと、①部下のために時間をとっている、②「対話」を起こしている、この2つがまず挙げられる。
まず①部下のために時間をとっている、ということから見てみる。部下のために取る時間といっても、殊更長い時間を取る必要はないし、また取る余裕もないことが多い。ここでいう時間とは、週にわずか10分程度の時間を指す。実際に週に10分間のまとまった時間を設けて部下と話す仕組みを作ったところで、部下の「モチベーション」「積極的な目標設定」「創意工夫」「仕事への自信」「成長の実感」「組織目標の理解」などあらゆる項目で、その時間を設けていない時と比べて評価数字は高くなった。

②の対話のポイントは、部下の話す量が多いかどうかである。対話といっても、ややもすると上司からの一方的な説教のような形に陥ることもあるが、それでは対話にならない。部下の話す量が増えることで、部下の考える機会が増えるのだ。そして、自分の行動の振り返りや気付き・発見が生まれることになる。

質問の仕方が違う

部下の話す量が多いか少ないかは質問の仕方による。例えば、システムに不具合が起こった時、成功するリーダーと失敗するリーダーとの典型的な部下への質問の仕方は以下のような感じになる。
 【成功するリーダー】
   ・不具合が起きている原因は一体何だろう
   ・改善へのアプローチとしてほかに何が考えられるだろう
   ・それで、何かやれることはあるだろうか
   ・それじゃ、早速明日からとりかかろう
 【失敗するリーダー】
   ・この前伝えた改善策は試してみたの?
   ・君に全部任せてあるんだから、何とかしてよ
   ・期待しているよ

どうだろうか。もちろん、成功するリーダーは、この後不具合の発生件数が低下してサービスの品質向上、システム開発コスト
の削減、効率化によるリソースの確保などにつながる。一方、失敗するリーダーは、改善策が見つからないままであったりする。

もちろん典型的な例だから、わざとそれぞれの差が分かりやすいようになっているが、これに近いことは誰しも経験があるのではないだろうか。自身がどちらのタイプにより近いのか改めて見直し、これからの取り組みの一助にしていただければ幸いです。