思い切った求人広告

「冒険に行きたい男子を求む。収入少。極寒。まったく太陽を見ない日々が数か月続く。危険が多く、生還の保証はない。成功した場合にのみ、名誉と称賛を得る」(「そして、奇跡は起こった!シャクルトン隊、全員生還」ジェニファー・アームストロング著)。これは冒険家のアーネスト・ヘンリー・シャクルトンが1914年に南極大陸横断に挑戦した時に、ロンドンで隊員を募集した新聞広告だ。この募集広告には世界中から5000人の応募があり、その中から優秀な25人を採用した。結局、探検は失敗に終わるものの、1人も死者を出さずに無事生還したという有名な話だ。

もしこの募集広告が、「未経験者大歓迎!誰でもヒーローになれます。南極探検隊員大募集!」と打っていたら、どうだっただろうか。おそらく5000人を超える応募があっただろう。そして、面接では「給料はどれくらいですか」「有給休暇はどれくらいありますか」「防寒対策はどのようなことをしてくれるのですか」「福利厚生制度はどうなっていますか」…などの目を覆いたくなるような質問が飛び交い、無駄な面接が繰り返されていたはずだ。そして南極に到着後、過酷な環境に恐れをなした人がすぐに逃げ出し、シャクルトンは再び隊員募集を行わざるを得なかったのではないだろうか。

甘い言葉だけを並べるな

「すぐに辞めるような者がくるような求人募集はするな」と社内にハッパを掛けている社長がいる。それももっともな話で、東京や名古屋、大阪などの大都市圏における企業は、1名の採用に対して平均して100万円から200万円程度の費用がかかると言われている。これには就職サイトへの求人広告費や会社案内などの採用ツール、会社説明会の会場費などを含む。仮に大がかりな求人活動をしないという中小企業にしても、その採用面接に際しての役員らの時間給、採用後の研修に要する費用、実際に戦力化するまでの費用などを考えると、やはりバカにはならないほどのお金がかかるはずだ。

すぐに辞められるとそれらがすべて無駄になる。だから本当は求人の段階で、マイナス面も含めてリアルな仕事の状況をきちんと伝えるべきなのだ。しかし、それをあまりにストレートに伝えすぎると、学生に鼻から敬遠されて採用できないことを担当者らは恐れる。だから応募してくる人物のハードルを下げようとするが、本当に必要なのは現実にあるハードルを上回るやりがいを伝えることだ。そこを鼻から間違って対応している企業が多すぎるように感じる。

学生はバカではない

かくいう私にも娘がいて今、大学4年生だ。周囲と同様に3年生の時に早々に就職を決めてきた。その娘の話を聞くと、内定企業からのあの手この手の引き留め策は相当なものだ。私の時はそれほどの就職難ではなかったが、それでも企業の今の学生への対応を見ていると隔世の感がする。就職という世の中への出発に当たって企業がそんなに甘く対応していると、逆にこれからの厳しい世の中を無事渡っていけるのかと親としては心配をしてしまう。杞憂であることを願うばかりだが、そんな目で見るからか、つい自分の娘の態度にも世の中を舐めているように見てしまう。

せめて内定後は世の中の厳しさを知らせるようなセミナーなどを開催してもらうことはできないものかと考えてしまう親バカ振りだが、娘の友人らが交わす話を聞いていると、案外とその当たりの覚悟も学生なりにできているのかなと思うことがあった。結局、内定者を逃がすまいとする企業の下心を学生はちゃんと理解していて、それを理解の上で踊らされている振りをしているだけなのかも知れない。それが本当なら、なかなか学生もしたたかなものだ。

社員は企業を愛しているか

でもそれだと、大卒が就職して3年の内にその3割が辞めてしまうという現実はどう理解したらいいのだろう。一般的には実際の職場の現状に新入社員がついていけない、希望とは違った、我慢が足りないなどと言われるが、本当にそうなのかなあと思う。そんなに新入社員の事前の認識は甘いのだろうか。私はそれより、むしろ企業の側に問題があるように思っている。学生に見え透いた甘い対応でその場を繕い、それで学生も満足してもらっているとする考えの浅さに愛想を尽かされるのかもしれない。

こんなことを考えると堂々巡りになってしまうのだが、根本はやはり企業の魅力づくりにある。それを怠ると学生に媚びをへつらわなければならなくなる。魅力づくりは何も働く条件だけではない。むしろ、待遇の良さを掲げても、それだけだとそれ以上の待遇のところに負けるだけだ。その企業でなければ得られないワクワク感、ドキドキする思いをどれくらい伝えているだろうか。何より企業を愛する社員がいなければ、その雰囲気は伝えようがないように思う。

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