努力不足の言い訳にするな

年齢を重ねるに従って記憶力が衰えてきていると悩んでいる人は多い。私の身の回りにもそんな経営者がたくさんいる。人の名前が思い出せない、経営数字がすぐに出てこない、新しいことを覚えたと思ってもすぐに忘れてしまう…。でもそれは、年齢にかこつけた自分の単なる努力不足の言い訳かもしれない。

最近の実験結果によると、115歳の脳の機能がほとんど老化していないことが分かり、脳の寿命は肉体の寿命より長い120年程度あると考えられるようになっているそうだ。またそのほかにも、いわゆる「ど忘れ」の回数は大人も子供も大して変わりないという研究結果も残されている。

ではなぜ年を取ると記憶力が無くなると感じるのか。

それは一説によると、「気にするかしないか」、「時間感覚の違い」などとされる。つまり、大人と子供とでは時間の感覚が異なり、大人の「1カ月前」は「最近」であるのに対して、子供にとっては「随分前」の話になるということだ。

興味を持つことの大切さ

私たちは好きな人の住所や電話番号ならすぐにでも覚えて忘れないものだ。料理の好きな人なら、難しそうなレシピでもすぐに覚えてしまう。要は興味を持つようにすればいいのだ。興味を持って臨めば、物事を知れば知るほど、経験できればできるほど、二次関数的に覚えられるようになるといわれる。

例えば、新しいことに出くわした時は、そのことを調べて、ストーリーを理解するようにすれば、記憶に残りやすくなるという。

例えば、1フィートは何センチか、学校で一度は出てきているはずだが覚えておられるだろうか。答えは30.48cmなのだが、これなどもフィートの語源が「足」を表すfootから来ていて、足先から踵までの長さを指すことが分かっていれば、正確には思い出せなくても、10㎝とか1mとかではないことは容易に想像がつく。

1ポンドが何グラムかも同じことだ。この答えは453g。これは古代メソポタミアで1人が1日に食べる小麦粉の量を指したそうだ。それが分かっていれば、常識的な量が頭に思い浮かんでくる。

効果的な繰り返し学習や練習

認知心理学という学問がある。それによると、我々の記憶の中には「短期記憶」と「長期記憶」がある。

「短期記憶」というのは、とりあえず必要とする20秒~1分程度の記憶を指す。例えば、電話番号を聞き取ってそれに基づいて電話をかけることはできても、かけ終わった後はもう忘れているというようなものだ。無意味な数字の羅列は覚えるのが難しく、1日経てば25%程度しか記憶に残らないとする研究もある。

「長期記憶」というのは、その中でも「意味記憶」、「エピソード記憶」、「手続き記憶」があり、この順番に忘れにくくなるといわれる。「意味記憶」は机の上で学習したようなものの記憶で、人の名前などもこの中に入る。「エピソード記憶」は自分が生活してきたことや体験したことを指す。「手続き記憶」は繰り返し学習や練習によって身に付けた技術や無意識に記憶していることだ。これなどは、逆に認知症になっても記憶として残りやすいとされている。

だから、物事を丸暗記するより、調べて、ストーリーを理解することは記憶に残りやすいということが学問的にも正しいことが分かる。

適度な運動、睡眠は必須

なお、記憶力を鍛える方法もいくつかあるようなのでお伝えすると、まずその一つ目は食べ物で鍛える方法だ。

中でも有名なのが、サバやサンマ、イワシなどの青魚に含まれているDHAが記憶力アップにつながるといわれている。このDHAが脳の中における情報伝達物質をスムーズにするのだ。
炭水化物でも記憶力は鍛えられる。炭水化物は身体の中でブドウ糖に分解され、これが脳にとっての唯一のエネルギー源になる。だからダイエットなどで炭水化物を制限すると記憶力低下につながりやすくなる。
このほかチョコレートやココアに含まれる「フラバノール」が記憶力向上に良いという研究結果も報告されている。

食べ物以外では、クラシック音楽が記憶力を高めるということが有名だ。中でも効果があるのは「バロック音楽」だという。バッハの「G線上のアリア」やパッヘンベルの「カノン」など、一度試してみてはいかがだろうか。

運動でも記憶力を鍛えることができるといわれる。脳の中にある物質の一つの「BDNF」は脳神経細胞同士のつながりを増やし、神経細胞同士の信号を強くすることが分かっているが、この「BDNF」を運動によって増やすことができるそうだ。実際の実験でも、運動後の方が20%も早く単語の記憶ができることが分かっている。

最後に、睡眠も重要だ。しっかりと睡眠をとっていないと、常に脳がうまく働かずに集中力が低下し、記憶力の低下に結びつく。しっかりと睡眠をとると同時に、朝の起き方も大切になる。朝は本来、朝日を浴びて自然に起きるのが良いとされ、目覚まし時計で無理やり起きるのは、人間本来の起き方とは異なり良い影響につながらない。自律神経を平穏に保ち、しっかり脳が働くことで集中力、記憶力の向上につながるのだという。