逃げちゃいけない

バングラデシュでバッグを作り続けるマザーハウスは、現地のジュートから生地を作り、現地でバッグに加工している。そのバッグを日本に輸出して国内で販売しているのだ。その山口絵理子社長は、実は通常の人の何倍もの辛酸を舐めた「熱意と突破力の人」といわれる。

山口社長は小学校時代から過酷なイジメにあっていたという。男子生徒には連日のように暴力をふるわれていたし、トイレに入れば頭上から水を浴びせかけられる。給食は横取りされて食べられない。そんな毎日が続けば誰だって登校拒否に陥ってしまうだろう。

山口社長もそんな一人だった。だが、その後が並みの小学生とは違っていた。つらく厳しい現実を前にしながら、「逃げたい。でも逃げちゃいけないんだ」と自分に言い聞かせた。

少しずつでも頑張る

結局、1時間、また1時間と少しずつ登校時間を延ばすことで、ついに登校拒否を克服したのだそうだ。この体験から、「少しずつでも頑張れば、必ず思った通りのことが実現できる」と感じ取ったという。この思いが、マザーハウスでも生きている。

その会社を設立するまでもいろいろな紆余曲折を経たが、設立後もやっと見つけた現地の協力工場でパスポートを盗まれる、そして再び工場探しをして見つけた工場でもデザイン画や原材料などが持ち逃げされるなど、大の男が尻込みするような状況で、何度も泣きながら活路を開いてきた。そして、今ではマザーハウスのジュート製のバッグが「かわいい」という女性ファンを増やしている。

人間の生涯は転職自由

一方で、一つの職場や学校などで、その職業や学問を続けられなくて、自殺に追い込まれる人の事件が相変わらず伝えられる。私は多分その多くが、当事者が几帳面で物事をゆるがせにできない性格の人なのだろうと思う。

でも世の中には、「さぼる」という形でその人が直面する困難を回避して、大して心に負担を覚えないでいられる性格の人もいる。

「さぼる」までいかなくても、要領の良い人は多くいる。もともと人間は、職業も技能もない赤ん坊として生まれてきたのであって、生まれながらにして大手企業のエリートサラリーマンとか、優秀な大学の卒業生として生まれてくるのではない。人間の生涯は転職自由なはずだ。

逃げるのも一つの力


真面目な人間ほどその過程から挫折する自分が許せなくなって自殺をする。でも死ぬほど辛い職場や学校環境なら、さっさとやめればいい。自殺するほどこき使う会社なら、あっさり退社することだ。会社にも学校にもやめる自由は残されているはずだ。やめて出直せばいいのだ。

先の山口社長のような「逃げない」生き方も一つの生き方だけれど、「逃げる」のも立派な力なんだと思っている。
要は自分らしく生きること。そのための選択肢は多くあることに気付いて欲しい。
どこに行っても多少の苦しみはついて回るだろうが、その苦しみを自分が楽しめる選択をしなければ損だ。