自由と疎外感

「寂しくないですか」と聞けば、多分十中八九の確立で、この人何を言っているの?と冷めた目で見返されるのが落ちだろうが、私が起業した当初は、こういう心境に陥ったことがある。
だから、私は起業を希望する人と話をする時は言うのだ。「寂しくなったら連絡してください」と。

サラリーマンをしていた時は、会社を辞めたらどんなにせいせいし、満員電車に乗らなくてもいいのはどんなに自由な気分だろうと思っていても、いざ会社を辞めて自由を謳歌するようになると、何をすれば良いのか途方に暮れて、さらに社会から疎外感を感じたりするのである。

良いのは始めの1か月だけ

私の場合、会社を辞めて自由を満喫したのは、始めの1週間程度だけだったように記憶する。
朝目覚めても夜まで予定が何もない。白紙のスケジュール帳に意味もなくメモを書いたりするのだが、それも飽きてくる。

何気なく外に出ると、そこは高齢者と女性の世界で、昼日中から働き盛りの男性がぶらぶらできる空間ではない。こうなると自由な時間が苦痛に変わってしまうのだ。


もちろん、起業するために仕事を辞めたのなら、しなければならない事がある。でもそれがうまくいっている間は良いが、最初から事業がうまく軌道に乗るとは限らず、むしろ「想定外」のことが起きて、四苦八苦する方がほとんどではないか。そんな時、強烈な孤独感に苛まれることになる。

自由と寂しさに耐えられること

休みをいつ取るかにしても自分の自由だ。1週間でも1か月でも1年でも好きなだけ取ればいい。
だから、私は起業家になるための第一の要件は、「自由と寂しさに耐えられること」だと本気で思っている。

あの元リクルート社フェローで、都内では義務教育初の民間校長として中学校の校長を務めた藤原和博氏も話す。「みんな一緒に満員電車に揺られていれば、とりあえず孤独ではありません。何となく仕事をしている『錯覚』も生まれます。しかし、『明日から会社に来なくていいよ』『電車に乗らなくていいよ』と言われたら、その自由さに返って恐怖を感じてしまう。定期券を買わない寂しさというものもあるのです」と。

偉くなるほどスケジュールを組むのが下手になる

人は会社で出世していくにつれ、会議や会食、土日のゴルフ、夏休みの時期なども、秘書がスケジューリングしてくれるようになる。営業部門の部長なども、いつ、どのお客様と会うかまで全部埋められていく。だからサラリーマンは偉くなればなるほど、自分で時間のマネジメントをしなくなり、スケジュールを組むのも下手になっていく。

だから起業する前に孤独に耐える強さを養い、準備しておこう。そうでないと、実際に起業してから、「やっぱりみんなと一緒にいる方が良かった」と泣く羽目に陥る。

「何を言ってるんだ。少なくとも俺は違う」と笑いたいのも良く分かる。でも覚悟はしておいた方がいい。そうでないと本当に笑いごとでは済まされなくなる。