【新規顧客が続かない悩み】

 ある飲食店の経営者から相談を受けた。
「〇〇新聞に記事にしていただいた直後は新規のお客様も良く来ていただいたのだけど、しばらくしたらさっぱりね…」。

賑やかな繁華街にあるちょっと値の張ったお店で、会社の接待にも使われる。古くから営業をしていて、いろいろなイベントも催したりして、その地域ではちょっと名の知れた店だ。

新聞からの取材を受けたのも、そんな地域の名物の店としての紹介をするのが目的だったのだろう。
 
店の経営者は固定客はしっかりつかんでいても、新規顧客の獲得に悩んでいた。そこに新聞からの取材依頼があって、渡りに舟と思ったのだろう。

でもその効果に疑問をもった経営者からの相談というのは、「もう一度、(別の新聞に)取材をお願いできないかしら」だった。
何か他にニュースがあるのならともかく、そうそう都合良く取材が相次ぐわけがないのだが。


【あるパン屋の例】

 もう一つ、次はある個人の職人さんが営むパン屋の例だ。
地方の商店街の中にあって、その商店街自身、ご多分に漏れず衰退化に悩んでいた。
決して立地条件は良くない。パン屋も何とか顧客を増やしたいと、これまで「全品30%引き」といったセールを行ってはいた。
しかし、セールを行う日は来店客が増えるが、そうでない日はこれまで通り客数に変化は見られなかった。これでは意味がない。

 ある時、折り込みチラシに、チラシを持って来店したらその店のウリであるクロワッサンを進呈するようにした。そして来店した客に、今度は使用日を限定した割引券を配った。

その使用日には食パンフェアを行い、メール会員につなげるようにした。
メール会員には、雨が降ったからサンドイッチを半額にします、といった情報を積極的に発信していった。

ほどなく、その店は売り上げ目標を達成するようになったということだ。

 

【ちょっとした差】

 最初の飲食店と、次のパン屋とでは、使った媒体は異なるものの、それぞれ新規の顧客をただ取り逃がしている例と、新規顧客を固定客化するためにステップを考え、手を打った例である。
 
飲食店の場合、「取材」というこちらの思い通りに事が運ばないという事情を勘案する必要があるかもしれないが、それにしても新聞に掲載されるというせっかくの機会を次につなぐ努力の後が見られない。これでは仮に何度新聞に掲載されても同じことだろう。

 一方、パン屋は、折り込みチラシを配布する前に、2回目の来店を促すきっかけ、そしてそれが継続するような仕掛けを施しており、新規顧客を固定客化する流れができていた。
両者の違いはそこにある。



【顧客を動かす原動力】

 店やサービスの宣伝をする時、チラシにするか店頭に看板を置くか、フリーペーパーを使うか、Web広告を出すか…と、今日ではその手段は非常に多くある。

しかし、どの媒体を使うか考える時に、使ったあとの次の手を考えていない、つまり、それを使ってどのように新規顧客を固定客化する流れを作るかということに思いをはせていない経営者が多いように感じる。

 せっかくの来店客を、次につないで、そのまた次につないで、とつなぐ努力をした最後は、その顧客に特別感(優越感)をもってもらうのである。

何も難しいことではなく、例えば、「ありがとうございます」と言っていた挨拶を、「いつもありがとうございます」と言い換えるだけでもいい。

それだけで、特に私のような中年男性は嬉しくなって何度でもその店に通ってしまうのである。