社会の中で生きる

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉の普及に伴って、企業の社会的責任(CSR)への注目も高まっている。SDGsを簡単に振り返っておくと、これは2015年の国連サミットで採択された2030年までの15年間で達成するために掲げた目標を指す。中身は17の大きな目標とそれらを達成するための169のターゲットで構成されている。SDGsという言葉もそうだが、街中でもSDGsへの取り組みを示す虹色の輪のバッジを付けたサラリーマンなどに出くわす機会が多いので、読者にももうすっかりお馴染みなのではないだろうか。

以前は企業は継続することで、従業員の雇用や税金を支払うことによって、社会に貢献しているとされてきたが、最近ではそれだけでなく、企業を取り巻くさまざまなステークホルダー、例えば、出資者はもちろん、従業員や顧客だけでなく、仕入先、金融機関、官庁などへの責任を果たさなければならないということが言われている。CSRはこのように企業が社会の中で果たすべき責任のことを表している。この取り組み次第によって、従業員の企業への貢献や売上にもつながってくる時代になっており、決してなおざりにしておくことはできない。

ディスクロージャーで信用を高める

では企業にはどのような社会的責任があるのか、具体的に考えてみよう。

まず基本的な責任の一つとしてあるのが、企業の情報をステークホルダーに開示していくことだ。これを「ディスクロージャー」と呼ぶ。企業は法令によって財務諸表や有価証券報告書を開示することが義務付けられているのが「制度的なディスクロージャー」と呼ばれるのに対して、投資家などに自発的に情報を開示していく活動も、IR(インベスターリレーションズ)の一環として取り組まれていることがある。IR活動では、企業の業績や将来に向けた取り組みを投資家に開示することで、投資家から円滑な資金調達をしたり、適切な企業価値の評価を受けることを目的にする。

法令だけでなく社会のルールや倫理も守る

また別の視点からあるのが、「コンプライアンス」というものだ。これは法令順守と訳されることが多いが、法令などの規則を守るだけでなく、社会的なルールや倫理を守ることまで含まれることがある。例えば食品メーカーであれば、利益を追求するだけでなく、安全な食品を提供したり、原材料や原産地を偽らずに表記することが「当然」とされる時代だ。もしそうしたことを守っていないことがバレたら、企業は社会的な信用を失い、最悪、市場から退場しなければならない結果を招いてしまう。このため企業はコンプライアンスを重視する体制を社内に作り、それが常に守られているかどうかをチェックしていく必要がある。

社外取締役で外部から経営をチェック

次に関連する言葉として「コーポレートガバナンス」がある。これは企業統治と訳されることが多い。ここで企業は誰によって統治されるか、つまり企業は誰のものかという問題がある。米国のコーポレートガバナンスの考え方では、企業は株主のものという意識が強く、経営者の独断による不祥事を防ぐ目的で強化されてきた。

日本ではこれまで企業は経営者や従業員によって経営しているという意識が強いため、外部からのチェックが働きにくかったとされる。しかし近年の状況の中で、企業に不祥事が生じないように、コーポレートガバナンスを意識した法律や制度が強化されてきているところだ。その一つが社外取締役の導入。日本ではまだまだ取締役は社内からの昇格が多いが、この社外取締役を入れることで、外部からのチェック機能を強化することが期待されている。

更に内部統制の仕組みを整備することで、業務が適切に行われているかをチェックすることが求められている。上場企業では2008年度の会計年度から内部統制報告書を提出することが義務付けられている。委員会設置会社という制度の導入もこの流れの中にある。委員会設置会社は取締役による経営の監督と、委員会による経営の執行を分離することで、より経営のチェック機能が働くようにしている。

いろいろな観点をビジネスチャンスに

以前からも「フィランソロピー」や「メセナ」といった言葉がよく伝えられていたので、一度はお聞きになったこともあるかもしれない。フィランソロピーは「慈善」や「博愛」を意味する言葉で、企業や個人による社会貢献活動や慈善的な寄付行為などを指す。メセナは文化や芸術の支援を意味する言葉で、企業の社会貢献活動のうち、特にそれらの分野での活動を指す。

特に中小企業にとってはなかなか事業に関わりのないところにまで手を広げることはできかねるのが本音のところだろう。しかし、地域社会における責任という点では間違いなく厳しく求められるようになっている。例えば、地元の障がい者や高齢者の雇用を積極的に進めている企業があったり、そもそも地域が抱える問題をビジネス的な手法によって解決しようとする「コミュニティビジネス」も生まれてきている。これらいろいろな視点からの取り組みがビジネスの機会を広げていることに注目して、積極的に取り組んでいくことが必要なのではないだろうか。