安さに走るのは最後の手段

どんな企業も売り上げを上げないことには成立しない。その売り上げを上げるために最も手っ取り早い方法として、つい取り扱う商品やサービスの価格を下げて売ることをしてしまい勝ちだ。それは自ら「安けりゃいいだろう」と言っているのと同じなのだが、必ずしも顧客やそういう“安さ”を求めているとは限らない。ここでいう安さとは同業他社が提供する同じような商品やサービスと比べての安さという意味と、顧客が求めるモノ、コトへの対価としての“安さ”がある。家電量販店などにおいても一般的によくあるのが、同業他社の商品やサービスと比べての安さだ。

ほとんど品質性能が変わらないモノを買う場合、確かに顧客の大半はモノの安い方を買うに違いない。それにしても自宅まで配送サービスをするとか、保証期間を長くするとか、納期が他店と比べて断然早いといったようなサービスで違いを出し、安売りを回避することはできそうだ。しかし、東京商工リサーチが行った「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」では競合他社と比べて「大きく優位」又は「やや優位」と回答した企業に対して、その優位性が価格に十分に反映されているかどうかを問うた時、約半数の企業が「十分に反映されていない」と考えているのだという。

その優位性は十分に伝わっていますか

これを顧客の属性別に見ると、消費者向けに商品やサービスを販売するBtoC企業より、事業者向けに販売するBtoB企業の方が「十分に反映されていない」と考える割合が1割多いことが分かっている(BtoB企業は51.9%、BtoC企業は41.9%)。つまり差別化を図り優位性を構築することができている企業ほど価格競争に巻き込まれず、自社の設定したい価格を押し通せるはずだが、それでも実際には優位性のある企業の半数で、優位性が価格に十分に反映されていないということだ。

この原因としてまず第1に考えられるのが、企業が商品やサービスの優位性を顧客に伝えることができているのか、という問題だ。BtoB企業とBtoC企業とに分けて、それぞれの企業がどのように顧客に優位性を発信しているのかを見てみると(同じく東京商工リサーチの調べによる)、BtoB企業は「従業員による訪問や来店時の直接PR」(72.6%)、「経営者による営業活動」(50.4%)、「自社HP」(49.7%)、「展示会やイベントでのPR」(46.7%)、「パンフレット」(40.4%)が多い。

一方、BtoC企業は「従業員による訪問や来店時の直接PR」(58.0%)、「自社HP」(50.8%)、「新聞広告・チラシ」(47.2%)、「展示会やイベントでのPR」(40.4%)などとなっている。

情報を発信することと効果があることは異なる

この調査で注意したいのは、企業が採用している優位性に関する情報の発信方法を問うているということであって、それがそのまま効果を表わしているものではないということだ。例えば、BroB企業もBtoC企業でもHPへの取り組みは多くなっているが、今の時代、HPでそれを取り上げているからといって、そもそもこれだけ情報が氾濫しているのに当該企業のHPの閲覧数がどれだけあるのか心もとない中で、企業の持つ商品やサービスの優位性がそれだけで伝わっていると考えるのはあまりに楽観的に過ぎる。同じことは他の方法・手段でもいえることだが、要はそれを採用しているからといって、即効果につながっているとは考えられない。

さらに特にBtoC企業で見落としてはいけないのは、消費者の価値観の変化だ。消費者の価値観が多様化していることは折に触れよく伝えられていることでもあるが、「安ければよい」という価値観についても、同じように減退していることが分かっている。これは特に規模で劣る中小企業やこれから起業するものにとっては追い風になる可能性が高い。実際、野村総合研究所の「生活者1万人アンケート調査」を見ても、消費に関して「高くてもよい」と考えている消費者の割合は、2000年には50%だったのが、2018年には66%に増加している。これらから判断すると、これからは企業の優位性をいかに広く、深く伝えていけるかが、BtoB企業、BtuC企業双方の大きな課題といえるだろう。

普段から価格に対する意識を持とう

そこでその伝え方についてもう少し考えていきたいのだが、今回はその前に、そもそも企業は個々の商品やサービスのコストの把握をどの程度できているのか、それによる差はあるのかを見てみる。

同じく東京商工リサーチのアンケートになるが、個々の商品・サービスごとにコストの把握ができている企業が、「優位性を価格に十分反映できる」と考えているのが53.7%あり、逆にコストを把握していない企業では47.9%しかないのに対して、その割合は高くなっている。これらの結果を見ていると、当たり前のことかもしれないが、普段から価格に対する意識を高く持つことが、適正な価格の実現につながることが分かる。

その価格の設定の仕方には大きく分けて3つの視点があるとされている。1つ目は「コスト起点型」と呼ばれるもので、これはコストを回収し一定の利益を確保できる価格に設定する。2つ目は「競合起点型」で、これは業界平均や競合他社の価格を参考に設定する。そして3つ目は「顧客起点型」で、顧客に受け入れられる価格に設定する。自社がどの類型に属するのか、それによってとるべき優位性の発信方法も変わってくる。