オフィスも5Sの徹底を

「オフィスの5S」という言葉をお聞きになったことはあるだろうか。生産現場などで使われている「5S」のオフィス版だ。中身は同じことを指しているのだが、念のために確認しておくと、
・整理…必要でないものと不要なものを分け、不要なものを捨てる。
・整頓…必要なものを決められた場所に置き、いつでも利用できる状態にしておく。
・清掃…職場の掃除を行い、同時に点検をする。
・清潔…職場のきれいな状態を維持する。
・躾(しつけ)…決められたルールや手順を守る。
このそれぞれの頭文字をとって5Sという。

この5Sは単なる美化活動や整理整頓を奨励しているわけではない。その目的は、生産現場などではこの5Sを徹底して無駄をなくし、それぞれの現場の課題を解決することに主眼が置かれている。実際、5Sは生産性の向上やリードタイムの短縮につながり、引いては社員のモラル向上など、意識改革にもつながっている。このようにさまざまな企業で実績を挙げている5Sは、もちろん生産現場だけに効果があるのではない。オフィスワークにもそれは及ぶ。ところがオフィスでは、生産現場ほどそれが徹底されているようには思えないのは私の思い過ごしだろうか。近頃しばしば問題になる情報漏洩なども、そのことと関係しているように思えるのだが。

探すだけで年間150時間?

ビジネスマンが必要なものを探すことに採られている時間は、一説によると年間150時間にも及ぶとも言われる。この無駄な時間を削減するだけで、オフィスでの生産性が大きく改善されることは自明だ。さらに職場内の情報を重要なものとそうでないものとに分けることは、情報セキュリティの面から言っても基本中の基本だろう。オフィスが整頓されていることは、ケアレスミスによるセキュリティ事故を未然に防ぐことにもなる。職場の掃除は情報の機密性を守り、点検は可用性(使用できる度合い)を高める。こうした当たり前の行動を徹底するだけで、費用をかけずに効率を高めセキュリティ対策にもなるとなれば、5Sに取り組まない理由はないはずだ。

例えば、机の上は帰宅時には何もない状態を保つことができているだろうか。離席時はパソコンをシャットダウンするか、画面をロックするようにすれば、たまたま通りがかったものが、その気がなくても、機密情報を手に入れてしまうようなことはなくなる。

部屋の掃除は毎日行われているだろうか。複数の社員がいるのなら、当番を決めて毎日10分程度だけでも掃除をすることで、気持ちの良い職場環境を作ることができる。特に紙置き場、ごみ箱、コピー機の周辺などは常に誰かが気を配るようにしたい。さらにロッカー、通路は共有のものであることを皆が認識し、個人の持ち物を放置しないことを心掛けたい。

ホワイトボードは利用後、きれいに消す。私が元勤めていた会社でも、よく前の利用者が使用したままの状態で放置されていることがあったが、そこで何が話されていたのか推測できたり、中には大切な数字が残っていたりしたものだった。それに会議室などに持ち込んだ資料はすべて持ち去ること。当たり前のようだができていない。

日頃のコミュニケーションが大きく左右する

情報セキュリティと言えば、すぐにITシステム上の問題かと思われがちだが、むしろそれ以前にIT以外のアナログな部分の注意が大切だ。これまでの経験上、再考して欲しいと思うのが、先に挙げた5Sと職場のコミュニケーションの改善、印刷物の管理強化の3つだ。

職場のコミュニケーションの改善といっても、ピンとこないかもしれないが、朝、オフィスに来た時、あるいは退社するときに周囲の人に声をかける、人とすれ違ったら挨拶をする、知らない人がいたら声をかけるなどといったことだ。自社内だけでなく、仮にレンタルオフィスのようなところでも、声掛けを怠らずに励行するだけで、侵入した不審者を早期に発見することができる。不審者が居室の奥深くまで侵入するのを防ぐのはもちろん、見知った者であってもふとした弾みで不正を働こうする思いを思いとどまらせることができる。

特に人の出入りが激しいオフィスにいると、見たこともない人がその場にいても不思議に思わない場面が増えてくる。これは不審者にとって侵入しやすい環境とも言える。社員がまだ少ないうちからでも、身分証を胸の分かりやすい位置につける。ノートパソコンなどを利用している時は、そのパソコンの分かりやすいところに名前を表示するなどの工夫も必要だろう。

印刷物の保管は公開範囲に気を付けて

オフィス内ではどうしても印刷物が氾濫してしまいがちだ。キャビネットなどに保管する際も、情報の公開範囲(社外秘、公開、秘密)と印刷した人を明記するようにすればいい。印刷物にこうした情報が記載されていると、情報を受け取った人がそれをどのように扱うべきかが分かるし、扱い方が不明な場合も誰に確認すればよいのかも分かる。自分の名前が記載された資料は自ずと丁寧に扱うようにもなる。

印刷機をオフィスの端に置いていることもあるかもしれないが、セキュリティとコミュニケーション強化の観点からは、それは人通りが多いところに設置した方が良い。不適切な資料のコピーや印刷を試みる者への牽制につながるからだ。印刷中は手持無沙汰になり勝ちなので、そこを通りかかった人との間にコミュニケーションが生まれるきっかけにもなる。また、その印刷にはエコの観点から一度利用した紙の裏紙を使うことが奨励されてもいるが、セキュリティ面からはあまりお勧めすることはできない。それなら両面印刷や1枚の紙に2ページ分を印刷するなどして紙の消費量を減らす方に注意を向けるべきだろう。

いかがでしょうか。費用をかけずともいろいろ工夫はできるものだ。もっといろいろな知恵で唸らされるような工夫を見てみたいと思う。