銀行と取り引きするメリットはお金だけではない

起業家が銀行から借り入れをするということは、負担が増えると考える方も多いが、一概にそうは言えないこともある。何より試しに「大手銀行と取り引きがある」という事実を取引先でするだけで、自分の会社への信用にもつながるし、経営上も大きなプラスになる。さらに銀行はさまざまな会社を顧客に持っているので、仕事に役立つような販売先、仕入先、提携先などを紹介してもらうこともできるかもしれない。銀行から借り入れをすることを考えるなら、その銀行からどのくらいの融資を引き出せるのかだけでなく、そうした営業上プラスになる支援をどの程度得られるのかまで検討して取り引きする銀行を決めるのも大切だろう。

銀行によって事情が異なるのかもしれないが、聞いたところによると、融資先に対しては20ほどに段階分けされた格付けと、取引方針というのを持っているらしい。でもたとえ格付けランクが低くても、銀行から「この企業を支援する」という取引方針を得ることができれば、扱いは違ってくるのだそうだ。企業からすれば、いわゆる「メインバンク」を作ることで、ちょっとオーバーに言えば、その企業と運命共同体のように支援してもらうことができる。困った時のつなぎの融資はもちろん、さまざまな助言も企業の側に立ったものがもらえるかどうかは天と地ほどの差が生まれることだろう。

銀行を味方につける

銀行を味方につけるためには、それなりの関係の積み重ねが必要なことは言うまでもない。ただ企業の決算さえ良ければ自然に強い絆が生まれるということではない。私の知り合いの企業の社長は、自ら経理の担当者を率いて3か月に1度、メインバンクを訪問し、決算書類や経営方針、数字に表れない3か月間に起きた諸々のでき事、それに対する対応などを説明する機会を作っていた。そこまでして初めて互いの信頼関係も生まれてくるのだろう。銀行側にしても「あの経営者なら信頼できる」と評価し、数字から得られる評価以上の取り引きを行ってもらえるようになったのだそうだ。

一度試しにというのも変だが、銀行に例えば500万円の融資を依頼したとして、銀行はどういう態度をとるだろう。融資を頼んだ方も利子を付けて返さなければならないリスクを負うことになるが、銀行は当然何に使う費用なのか、きちんと返すことができるのかを問うために、さまざまな説明を要求してくるだろう。そして、「その内容なら300万円までなら無担保で資金を融資してもいいですが、それ以上になると担保を付けてください」などの話し合いが行われることになる。そうしたやり取りを通じて、これからやろうとする事業や自社の現在置かれている客観的な信用力を測ることができる。そして自社に足りないところがあるのなら、その部分を修正していかねばならない。

いろいろある新しい資金調達方法

かつては資金を借りると言えば、不動産を担保にして借りるというのが一般的だったが、それでは土地などを持たない起業家はいつまで経っても十分な資金を得ることができなくなる。これを補う制度として、流動資産担保融資制度(ABL保証制度)というのがある。これは企業が持っている売掛債権や棚卸資産などの流動資産を担保にして、銀行などから融資を受ける際に信用保証協会から保証を受けられるものだ。これによって土地のような不動産を持たなくても融資を受けられやすくなっている。この制度は保証割合が80%の部分保証となっており、融資限度額は2億5000万円、保証限度額は2億円だ。対象となる動産や債権の評価に時間がかかったり、譲渡担保登記が必要になる、債権者に一定の報告義務が生じるなどのデメリットも併せ持つが、ベンチャー企業などにとっては利用する価値も大きいのではないか。

また、知的財産権担保融資はその名の通り、企業が持っている知的財産を担保にして融資を受ける仕組みだ。以前はゲームやアニメ等のコンテンツの著作権に関するものが目立ったが、その後政府系金融機関等が中小企業の特許権や著作権を担保にして、積極的に融資をするようになっているようだ。
一方、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資を仰ぐという方法もある。VCはプライベート・エクイティ・ファンドを通じて非上場会社に投資し、3年から4年といった一定期間内に会社を上場させたり、他のファンドや事業会社に転売したりして投下資本を回収する。アイデアのみの段階から事業資金を提供して事業の立ち上げを支援するものや、上場前のベンチャーに投資して株式上場した際に値上がり益を得ることを目的としたものなど、さまざまある。うまく使うことができれば、自分たちの強力な援軍になるはずだ。

投資型クラウドファンディングという方法も

最後になったが、クラウドファンディングは新規・成長産業と投資家をインターネットのサイト上で結びつけ、多数の投資家から少額ずつ資金を集める仕組みとして知られている。従来、日本では金銭的リターンを伴わない寄付などの形態での取り扱いが中心だったが、アベノミクス成長戦略の一環として、市場活性化のために投資型クラウドファンディングの利用促進が図られている。

この投資型クラウドファンディングはクラウドファンディングのプラットフォーム上で、事業者が不特定多数から手軽に資金を借り入れたり、株式を売ったりできる。投資をする側はその見返りとして分配金やその他のリターンを得る。投資は1万円程度あれば参加できる上、期待利回りはプラットフォームや案件によって異なるが一般には株式配当や投資信託より高いことが特徴となっている。もちろんその半面には元本の返済を受けられなくなるという貸し倒れリスクもあるが、これなども資金調達の新たな選択肢として期待されている。