今のままで幸せになれますか

この年末年始の休みはどこへも行かず、家の中で過ごされた方も多いのではないだろうか。休日だから身体を休ませたり、家庭サービスを思う存分できるのもいいのだが、のんびりと過ごしていると、ふと普段の時間の使い方が気になった。ライフワークバランスが唱えられ、残業なども制限がかけられるようになったのは良いのだが、それで本当に自分のやりたいこと、しなければならないことができているのだろうか。仕事では労働時間が減った分、効率が求められているのだが、ルーチンワークをこなすのに精いっぱいになってしまっているのが現実という仲間も多い。それで本当に幸せになれるのだろうか。

「7つの習慣」の著書で知られるスティーブン・R・コヴィー氏は、その著書の中で緊急度と重要度という2つの軸から成る時間管理のマトリックスを示している。コヴィ―氏は私たちの多くがその第1領域である緊急度も重要度も高い問題に生活が圧倒されていることを危惧している。毎日さまざまな第1領域の問題に振り回されて生活している結果、やがて疲れ果ててしまうのだ。そして、そんな人たちが逃げ込む先が第4領域と呼ばれる、緊急でも重要でもない事柄なのだという。例えば、締め切りのある仕事に追われる一方で、だらだらと意味のない作業に時間をつぶしているような感じだ。

緊急ではないが重要な事柄への集中を

もちろん緊急かつ重要な仕事が大切なものであることは間違いないのだが、コヴィ―氏は効果的な時間を持つためには、緊急ではないが重要な事柄を扱っている第2領域の仕事に集中することが肝要だと説いている。ここには職場における人間関係作り、中長期的な計画の策定、予防保全、あらゆる準備作業などが入っている。誰もがこうした活動の大切さを理解しているはずだが、それらは「緊急でない」との理由で、確かにいつまで経ってもなかなか手が付けられていないことが多い。

あのピーター・ドラッカー氏も、「大きな成果を出す人は、問題に集中しているのではなく、機会に集中している」ということを話しているという。つまり、予防的に物事を考えることによって、先の第1領域である緊急かつ重要な問題の量を少なくしているのだ。そして、その領域の問題を対応できる範囲内に収めている。社長であれ、従業員であれ、学生であれ、主婦であれ、誰であっても「自分自身の第2領域にどういう活動があるかを問いかけて、それを実行に移す主体性を発揮すれば、同じような結果を得ることができるはずだ」と説いている。

ルーチン化された業務が奪うもの

同じようなことは「グレシャムの法則」としても知られている。グレシャムと言えば、「悪貨は良貨を駆逐する」で有名な、あのグレシャムだ。これは悪貨と良貨の2種類の貨幣が同時に流通する時、素材価値の高い貨幣(良貨)が、その素材価値のためにしまい込まれてしまったり、素材として溶かされてしまったり、海外との取り引きのために流出してしまうために、結局は素材価値の低い貨幣(悪貨)だけが流通するようになるというものだ。この法則が組織の中にも通用するのだという。

それを説いたのは米国の学者だそうだが、彼は「ルーチンは創造性を駆逐する」と説いた。これは人はルーチン化された日常業務(悪貨)に追われていると、長期的で重要な計画(良貨)を考えられなくなってしまうことを言ったものだ。これを一般には「計画のグレシャムの法則」という。彼はまた、このルーチン化された日常業務は未来についての創造的な思考を奪うだけでなく、過去についての思考をも奪うと言っている。ルーチン化された日常業務が何の目的で行われているのかを忘れさせ、ただ形式として繰り返されるだけになってしまうとしているというのだ。

忙しさでごまかしていることはないか

「納期が迫っているのでそちらを優先しなければならない」「トラブルが発生したので急きょそちらへの対応に振り向けます」「大切な約束が入ったので仕方ないのです」…。今も重要な仕事であるとは分かっていても、ついつい目先の仕事を優先するあまり、というかそれを言い訳にして、ずるずると対応を後回しにしていることはないだろうか。ひょっとしたら「忙しい」と言いながら、日常業務をこなしている方がまだ楽であることが分かっていて、そこに逃げているだけかもしれない。忙しいのは当たり前で、それが何故忙しいのかを改めて振り返ってみた時、そこに輝かしい未来が待っているようでなければ、仕事の仕方を見直した方がいい。

働き方改革では仕事の見直しをすることが当たり前のようになっている。しかし、それが単に発生してしまった問題の後片付けやルーチンワークの効率化に終わっていては、それこそせっかくの働き方改革の機会をムダにしてしまっていることになるのではないだろうか。「これまでと違う新しい顧客からの仕事は増えているか」「これまでと違う技術や業務へと仕事の領域は広がっているか」「顧客に新しい提案を仕掛けているか、そしてそれは受け入れられているのか」…。これらの問いを自分自身に投げかけ、希望を持って新しい年を歩んでいきたい。