アンケートの限界

世の中にアンケートはたくさんあって、協力をお願いされる機会も多い。しかし、こと新商品やサービスの開発に関してアンケートという手法を用いるなら、少なくともやみくもに思いついたことをアンケートにしても、有効な回答は期待できないだろう。そもそも私が相談を受けた中でも、始めの段階で何のために調査をするのか、調査対象を誰にするのか、どんなことを質問するのかといった基本的なことさえ不明確で、どんな仮設に基づいたものなのかが分からない場合も少なくない。アンケートを利用するなら、質問文の言い回しや選択肢の設定の仕方によっても回答の精度や充実度に差が出てくるので、十分に検討を重ねなければならない。

そんなことを考えると、何だか「労多くして益少なし」といった言葉が頭をよぎる。だが、それでもそうした類のアンケートがなくならないことを見れば、それなりのノウハウや成果などもあるのかもしれない。しかし、基本的にそこから得られる回答は、今のお客様が自覚している範囲のことだけしか出てこない。つまりお客様が既に知っていること、顕在化しているニーズを、商品やサービスの開発に反映させる場合にしか役立たないことを認識しておかねばならない。すでに世の中にあるアイデアが大半で、そこから驚きのある新製品・サービスを出そうとするのは無理だろう。

欲しいものが分からない

何故そんなことを言ったかというと、「困ったらお客様に聞く」ことがマーケティングの鉄則とばかりに、自社の命運を賭けた新商品の開発に当たって、ほとんど検討らしい検討もせずアンケートに取り組もうとした会社があったからだ。念のためにいうと、その会社は業界では知る人ぞ知る、有名な老舗なのだが、何をするにしても「前例踏襲主義」が幅をきかせていて今回の新商品開発でも過去と同じ手順を踏んだという次第だった。しかし、少なくとも「自社の命運を賭けた」というほどの覚悟を示すなら、「こんなものが欲しかった」とお客様が見て驚くようなものでないと意味がないではないか。

では、お客様がまだ知らないことを見つけるにはどうすれば良いだろう。知り合いの専門家に聞けば、お客様を観察することで本音を探り出すことが大切と教えてくれた。その観察には2種類あるという。一つは、実際に「観に行く」ことだ。実際にお客様が買う現場、使っている現場へ行って、潜在ニーズを発見するのだ。もう一つの観察は、「データの行間を読む」ことだ。「ビッグデータ」と言えば、最近よく目にするようになったので皆さんご存じだろうが、文字通り一般的なデータ管理・処理ソフトウエアで扱うことが困難なほど巨大で複雑なデータの集合を表す。そうしたデータを観察することで見えてくるものを拾い上げるのだ。

サプライズの喜び

恋人に喜んでもらおうするなら、「誕生日のプレゼントは何が欲しいか」を聞いてからそれを用意するのではなく、相手の好きなものをこっそり調べてプレゼントしようとするだろう。先にもとり上げた「観察する」というのは、つまり本人も気付いていない、教えらえたらうれしいことを発見し、それを新製品やサービスの開発に生かすということだ。そのためには、まずそのお客様は誰なのかをはっきりさせなければならない。例えばお客様が小学生で対象商品がスナック菓子であれば、彼らの買う現場などを観察して、1袋100gだとお金が足りないのだと分かれば、小遣いで買いやすい小袋タイプを発売するといった感じだろうか。

「データの行間を読む」ことについては、POSデータなどで「いつ」「何が」「いくつ」「いくらで」などの、買った時のデータが残る時代だ。その集まったデータを見ると、「何故このスナック菓子がこの日多く売れたのか」ということを調べるうちに、それが翌日近くの小学校で運動会があったからだということが分かったりする。そうすると、次からは運動会の前に類似のスナック菓子を揃えれば売り上げが上がるということにつながる。お客様のターゲット層が20代の独身女性なら、彼女たちの行きそうな店やサービスのデータを集めることでその指向を探ることもできる。

小さく生んで大きく育てる

もう一つ、マーケティングの基本では「小さく生んで大きく育てる」というのがある。つまり最初から新製品やサービスを全国展開することはせず。まずは札幌や福岡などの地方都市で販売してみて、その成果を確認してから計画通りに行きそうであればそのままで、計画外のことがあれば修正と改善をしてから全国に展開する。今の時代であれば、クラウドファンディングを利用するのも面白いのではないだろうか。まず限られた予算の中で応援してくれる人が集まるのかどうかを確認して、その反応を見ながら次第に販路を広げるようにするのも手だ。

いずれにしても試行錯誤しながら進めることになるが、新製品の立ち上げに関わった中での感想を言わせてもらえれば、人は計画通りに行かない時には、「なぜだろう?」とその原因を分析しようとするが、目標にしていた売り上げを超えると、「よかった」「万歳!」とばかりに祝杯を上げに行きがちだ。しかし、それは要注意だ。たままた運よく売り上げが上がっただけかもしれないし、何故計画通りに行ったのかの理由をはっきりさせるべきだ。そうして初めて成功のためのノウハウが社内に溜まっていくことになり、次もうまくいく可能性が高まっていくだろう。