戦略がない?

新型コロナウイルスの感染拡大はまだ今日現在、収束の方向を見せていないが、企業経営においてこの先々が見通せないという状況ほど、まったく対応に困るものはない。ニュースで従業員の削減を行おうとした企業の経営者が、その説明を従業員たちの前で行う場面が映されていたが、経営責任を問う従業員たちの前でなすすべもなくうなだれる経営者の姿は、従業員の立場を考慮に入れても、それだけでもう気の毒でもあり、その心中察するに余りあるものがある。その従業員たちの声の中で、ひと際気になったのが、「うちにはこんな非常時を想定した経営戦略というものがなかったのか」という言葉だった。

「うちの会社には経営戦略がない」とは、このコロナウイルスの感染拡大が問題になる以前から、居酒屋などでは必ず出てくる酒の席の愚痴の定番だろう。しかし、そのほとんどはよく聞いてみると、本当に戦略がないのではなく、人によって異なるものを戦略と考えているケースも多いことに気づかされる。同じ「戦略がない」という懸念も、経営幹部が懸念するのは体系的な戦略が明確に存在しないことであったり、中堅幹部の話しによると、長期の蓄積につながる投資への配慮が足りないことであったり、要するに「戦略」という言葉に人それぞれが多様なイメージを思っていて、混乱している感じがする。

多様な戦略

いったい経営戦略にはどのようなものがあるのか、ここでちょっと振り返ってみたい。一橋大学の沼上幹教授は、多様な経営戦略を5つのタイプに分類する。これらは①戦略計画学派、②創発戦略学派、③ポジショニング・ビュー、④リソース(経営資源)・ベースト・ビュー、⑤ゲーム論的アプローチ、の5つだ。これら5つは大体歴史的にもこの順番に生み出され、普及してきたものだという。

戦略計画学派では事前に経営トップが策定し、事後的に組織の末端が実行するトップダウン的な考え方をとる。それに反論したのが、創発戦略学派だ。経営戦略とは事前に経営トップや本社の戦略スタッフが詳細に策定したものではなく、中間管理職が日々目の前のビジネスチャンスを活用していくプロセスの結果として、事後的に創発するパターンであるという考えだ。

これらに対して、最近の経営戦略論にはポジショニング・ビューとリソース・ベースト・ビューという2つの対立した考え方があるという。ポジショニング・ビューは市場の機会と脅威の分析に軸足を置き、リソース・ベースト・ビューは経営資源に軸足を置く戦略論である。

各戦略にあるメリット・デメリット

そして最近の流行りとも言えるのが、相手の出方を読みながら、相互の「打ち手」の成り行きを予想するゲーム理論だ。例えば、航空業界のマイレージサービスなどはゲーム理論的なアプローチが生きた典型例とされる。価格競争に苦しんでいた米航空業界で、ある航空会社がマイレージサービスを開始した。飛行距離に応じて、距離に応じたポイントをマイレージとして付加し、一定レベルを超えると、例えばハワイまでの航空券をもらえるというサービスだ。航空会社にとっては閑散期にハワイまで1人を追加輸送してもほとんどコストはかからない。他の航空会社も競って類似のサービスを導入したのはご承知の通りだ。

このようにいろいろなアプローチがある経営戦略だから、話し手がいつの時代を生きてきたかによっても戦略への取り組み方は異なってくるかもしれない。しかし、とにかく5つの経営戦略にはそれぞれにメリットとデメリットがもちろんある。例えば、戦略計画学派の戦略観が過度に強くなると、事前に経営トップが決めた戦略が強調され過ぎ、現場のミドルが発揮するイニシアチブを押し殺してしまう可能性がある。逆に、創発戦略学派が行き過ぎても、魅力の薄い企画であっても「ミドルの意欲をまず買ってやらせてみよう」という甘い判断が生まれやすい。

目標と戦略の混同を避ける

ポジショニング・ビューは選択と集中を行うことは得意でも、人材という目に見えない経営資源の貴重な育成機会まで奪ってしまいかねない危うさがある。それを考えるとリソース・ベースト・ビューの方が優れているかとなると、これはこれで「いつか役に立つはず」と思われる無用の長物をいくつも抱え込んでしまうことになりかねない。ゲーム理論的アプローチはある競争場面における局所的な対応になりがちで、より大局に立った長期の構想という側面が弱い。従って、これらの長所・短所を見極めたうえで、バランスよく戦略を思考していかねばならない。

しかし、間違っても「コロナのように何時、何が起こるのか予想することは誰にも分からないのだから、経営戦略にしても立てるだけ時間の無駄だ」とばかりに切って捨てることがないように注意をしたい。むしろ先行きの分からない時代にこそ、羅針盤は必要だ。「いやうちは大丈夫」という中にも、その中身は「うちは長期に渡って売上高を毎年3%ずつ伸ばし、ROI(投下資本利益率)を10%にしていくという目標がある」といったように、毎年達成すべき目標数字を決めているだけだったりすることがよくある。その数字を生み出す原因となる企業活動について何も語っていなければ、その企業はいざとなったときに路頭に迷うばかりである。

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