目の前の感情をコントロールする

経営者たるものいつも沈着冷静でありたいと思いながらも、ついつい目の前のことに感情的になってしまったり、突発的・衝動的に行動してしまいそうになったり、そのことをふとした時に何度も思い出してはイライラしたり、苛立った気持ちをいつまでも長引かせたり、不平・不満が止まらなかったり…、となかなか自身の感情をコントロールするのは難しい。「そんなことより時間がないんだよ」と言いたい気持ちもよく分かる。普段いろいろな課題に直面し、それに対する判断を求められていてはイライラするのはもっとも。誰だって怒りたくて怒っているわけではない。

しかし、私たち、特に経営者ともなれば常に悩ましい問題をいろいろ抱える中でも冷静に判断しなければ、その判断が致命的なものになれば取り返しがつかない。経営者だって鬼ではないのだから、誰も傷つけたくないし、本当は怒りたくもない。そう思っていても悩み、モヤモヤした気持ちを抱き、悲しみ、恐怖、怒りなどの負の感情を抑えようと思っても抑えられない。そんな経験は誰しも持っておられるだろう。一方で、そんな感情に支配される時、社内で孤立し「どうして分かってくれないのか」「何故こんなことも理解できないのか」と思ったりもして、それがまた部下を傷つける言葉となってしまうのだ。

怒りで最も傷つくのは自分自身

「それらが部下であったり、他人に向けられた言葉でも、結局最も傷ついているのが自分自身でもある」と指摘をするのは精神科医の藤井英雄先生だ。その著作「怒りにとらわれないマインドフルネス」で多くの人が「怒らない方法」であったり、「怒りを鎮める方法」を模索するが、「そもそも怒りとは自分自身を守るための反応だから、なくそうとすること自体無理な話だ」と話す。「怒りの感情を持つことを否定するのでなく、怒りをうまくコントロールすることが大切なのだ」との指摘も。私などのように、すぐに部下をその場で叱りつけ、うまく教育したつもりでいる経営者などは要注意だ。

最近、「マインドフルネス」という言葉がもてはやされている。マインドフルネスとは「今、ここ」に生きることであらゆるネガティブな思考を客観視して手放し、その感情を癒す「とても素晴らしいツール」なのだそうだ。中でもとりわけ怒りは経営者にも常について回るものだ。私ならマインドフルネスを駆使して怒りを「手放す」ことができても、すぐに手放したはずの怒りが戻ってきてすぐにイライラしてしまい、他人にぶつけることもありそうだ。この「悲しみや恐怖などといった感情にはない特殊な事情を持つ怒り」について、藤井先生はそれを感情エネルギーの流れととらえ、「喜び」や「思いやり・愛・慈悲」にまで高めるアイデアを紹介する。

感情には流れがある

藤井先生は怒り、悲しみ、不安、恐れなど感情にはいろいろあるが、ポジティブな感情であれネガティブな感情であれ、感情とはある種のエネルギーであると説く。このためそれは「人を行動に駆り立てる力を持っている」という。そして、常にエネルギーは動いている。先生はそれを、「今泣いたカラスがもう笑った」とあるように、人はずっと同じ感情を感じているわけではないことを話す。そして、この感情の流れを東洋に古くから伝わる陰陽五行論を用いて説明する。万物は陰陽2つの極に分かれ、5つの性質(木・火・土・金・水)に分類できると説く陰陽五行論は、人の感情もまた五行に分類した。

そして五行は木(怒り)→火(喜び)→土(思いやり)→金(悲しみ)→水(恐れ)の順番に流れ、それが繰り返されるのだという。だから怒りのエネルギーは恐れのエネルギーが原因となって起き、その怒りのエネルギーもやがては喜びのエネルギーに転じていくということだ。恐れから怒りが生じるというのは、大切なものを失ってしまいそうな時などに、これは一体誰のせいなのか、何故失わせようとするのかなどという恐れが、それを防ごうとするために起こる戦いの準備を整えることだと説明する。つまり、大切なのは怒りが起こるオリジナルな感情は何なのかを知ることであるというのだ。

感情を客観視する

例えば、幼いころから厳しく育てられてきた人は、批判されるのが怖くて新しいことや難しいことに挑戦することにどうしても臆病になってしまう傾向があるといわれる。その結果、自己肯定感が弱く、何事に対しても自信を持って取り組むことができなくなっている。それなのに、新しい仕事を割り振られてオドオドした様子が客先にも伝わり、うまく成果を出せない。その結果、つまらない失敗が繰り返されたりすると、自分自身も、そして相手からも怒りが生じてくる。こんな時に失敗だけを怒っても問題は解決できない。その原因となっている元の感情を客観的に見て、平常心を取り戻すことが肝要だという。

先の循環を見れば、怒りの次に喜びがくる。これは自分を守るために怒りのパワーを燃やし、大切なものや失いたくないものを取り戻すことができれば、当然喜びが生まれるということを示している。さらに、マインドフルネスによって自分の感情を客観視して悲しみや恐れ、怒りを根こそぎ解決することができた時、真の喜びを感じることができるという風にもとらえることができる。ものごとが上手くいかず悲しみや恐れ、怒りでいっぱいの時、それを客観視する訓練を何度も積み重ねることで、負の感情が大きければ大きいほど、逆にそれは大きな喜びにつなげることができるということだ。